「京都府経営改革プラン」は「府政解体プラン」
府民一人ひとりの暮らしを支え、憲法を暮らしに生かす、もう一つの京都府政を
2005年7月8日
日本共産党京都府会議員団
はじめに
京都府は今年3月、「京都府経営改革プラン(新・財政健全化指針)〜府民目線に立った税金の有効活用を目指して〜」を発表しました。
このプランは、「行財政改革指針(かいかくナビ)」(平成15年9月発表)の「財政版」と位置づけられたもので、「京都府の役割を見つめ直し」「経営的な観点に立って、今後の行財政運営の具体的方策を示した」とされており、山田府政のめざす方向とその本質をハッキリと示したものです。その特徴は、今後400億円を超える府民サービスの削減や、1000名もの人員削減などの大リストラを進めるとともに、京都府の仕事を民間に「丸投げ」する方向を示したことなどです。6月議会では、指定管理者制度の導入のための関係条例の制定をはじめ、その方向がいよいよ具体的に明確になりました。
わが党議員団は、「京都府経営改革プラン」にもとづく、自治体の役割放棄・解体を許さない府民的運動をよびかけるものです。
1、「京都府経営改革プラン」の背景−小泉流「構造改革」路線は自治体をどこに導くか
いま、国は「官から民へ」「国から地方へ」を合い言葉に、「自治体構造改革」を強力に推し進めています。その特徴は、@市町村合併と道州制の導入、A「三位一体の改革」の名による地方財政の縮小、B地方自治体の行政改革=リストラと民間開放の推進などです。これらは、財界奉仕の地方制度づくりであり、まさに戦後の地方自治・地方制度の大改悪です。この中でいま、地方自治体においては、強引な「市町村合併」や「アウトソーシング」をはじめ、自治体の解体ともいわれる事態が各地で広がり、自治体はそのあり方をめぐって、歴史的岐路に直面しています。
そもそも、この小泉流「構造改革」路線とは、小泉内閣の基本方針「骨太の方針2001」の中で本格的に掲げられたもので、「『民間でできることは、できるだけ民間に委ねる』という原則のもと、徹底した行政改革を行う」として、「民間開放」と「自治体の空洞化」をすすめようとするものです。そして、公共サービスについて、市場メカニズムにもとづき、「民営化、民間委託、PFIの活用、独立行政法人化等の方策の活用」を進め、公共事業についても、「建設、維持、管理、運営それぞれについて、可能なものは民間に任せることを基本にする」としています。社会保障制度についても、「民間部門で実現可能な機能はそこに委ね」るなど、あらゆる分野での「民間開放」が掲げられています。
しかも、この「構造改革」路線は、かつての「臨調行革」時代の「民間活力論」と異なり、「『民』でできないことはない」との理念にたって、民間企業の利潤確保のために公的分野の民間開放を一気に進めようとするところにその本質があります。それは日本経団連の2004年版「経営労働政策委員会報告」で、「規制緩和を通じて行政サービスを民間に開放し、この分野の膨大な潜在的需要を顕在化させる」とのべているとおり、財界が自治体の市場化を大企業のビジネスチャンスと位置づけていることからも明らかです。
こうした国の動きを背景に、すでに全国では、自治体の公的責任の解体ともいうべき事態が進んでいます。例えば埼玉県志木市では、「ローコストの市政を実現する」として「地方自立計画・行政パートナー制度」を導入(2003年8月1日実施)し、市民やNPOを有償パートナーとして、市と業務委託契約を結び、「将来は現行職員530人(市民病院を除く)を専門官50人に減らす」としています。専門官は、政策立案や管理業務、公権力の行使や市民のプライバシーに関する業務のみを行い、それ以外の直接的な行政の仕事はすべて民間に委ねるという究極の方法がすすめられています。神奈川県横浜市では、中田市長の下、2002年9月に「横浜リバイバルプラン」を策定し、「民の力が存分に発揮される都市・横浜の実現」を目指し「市民とともに都市を経営する」都市経営を強力に推進すると述べ、2003年10月には、「アクションプラン」として「市役所の構造改革・行動改革 工程表」が発表されています。その下で、前市長が2002年に600億円かけて改築し、「医療、とくに精神科救急や難病対策については、公がやらなければならない。民営化はしない」としていた横浜市立港湾病院を指定管理者制度の導入により民間委託、また、横浜市立大学がこの4月から公立大学法人として再編、公立保育所も計画的に民営化、小学校は統廃合されるなど、次々と実施されています。
こうした動きは府県段階でも顕著で、知事が「府をなくす」とまで述べた大阪府では、「教育改革プログラム」にもとづき、廃校予定の府立高校20校のうち18校分の跡地を710億円で売却、また5つの府立病院を独立行政法人化する動きが強められています。
2、総務省「新地方行革指針」の狙いをそのまま京都に持ち込む山田府政
―京都府は「総務省京都出張所」か?
山田知事が「小泉流改革に賛成」(「京都新聞での新春対談」)と強調したように、「経営改革プラン」で推進しようとする「構造改革」、「経営改革」の内容は、小泉流「構造改革」の考えとまったく同じものです。
「経営改革プラン」が発表された翌日の3月29日、総務省が「地方公共団体における行政改革の推進のための新たな指針(新地方行革指針)」を策定し、全国の地方自治体に通知をしました。通知文は「この指針を参考としてより一層積極的な行政改革の推進に努める」として、地方自治体が2005年度から、おおむね5年間の「集中改革プラン」を策定し公表することを促すなど、政府の進める「行政改革」の具体化を自治体に厳しく迫るものとなっています。また、地方公共団体における行政の担うべき役割の重点化として@民間委託等の推進、A指定管理者制度の活用、BPFI手法の適切な活用、C独立行政法人制度の活用、D地方公営企業の経営健全化、E第三セクターの抜本的な見直し、F地方公社の経営健全化、G地域協働の推進、H市町村への権限移譲、I出先機関の見直し、などの課題を列挙し、さらに、定員管理や電子自治体の推進なども盛り込まれています。
これらは、すでに山田知事が就任以降3年間にわたり取り組み、「経営改革プラン」にも、その手法の多くを盛り込んでいるものです。このように「経営改革プラン」は総務省流の「自治体構造改革」路線の進め方そのものです。そのことは、知事、副知事、総務部長がすべて総務省出身者で占められている全国で唯一の異常な体制と無縁ではありません。京都府庁はまさに「総務省京都出張所」となっているのです。
3、「京都府経営改革プラン」は何をめざし、どこに行き着こうとしているのか
@自治体を「経営体」ととらえる―「削減型」から「経営型」に転換
山田知事は、京都府政をひとつの「経営体」とみなし、これまでの「削減型改革は限界」であり、「行政手法を根本的に見直」し、行財政改革を断行して、採算性を最優先する府政へ転換しようとしています。
6月議会で山田知事は「『経営』の意義は、限られた資源を最大限に生かし、府民に最大のサービスを還元するもの」、「府民の目線に立った税金の有効活用をめざすこと」、「『採算性』などと言う言葉は『経営改革プラン』にはない」などと言い訳をしました。しかし、山田知事が今年度予算で「250億円の経営改革を断行」として行ったのは、生活保護見舞金の廃止、介護保険利用料軽減措置の廃止など、府民の暮らしを支える施策の切りすてです。そして、府幹部に対し「今年の大きな目標として価値を生まない事業の廃止を行っていただきたい」(4月21日 部課長公所長会議)と述べ、今後さらに400億円(経営改革プラン)の府民サービスの切りすてです。また、京都府立洛東病院の廃止に続いて、「経営の観点」からの府立高校つぶしです。今後さらに府立大学の独立法人化や、府民の財産である府有施設を「ファシリティマネジメント」(経営的視点から行う経営管理)の名で切り売りする、など「経営効率最優先」で自治体の役割を投げ捨てる府政運営を矢継ぎ早にトップダウンで進めようとしています。
このように、京都府政を「経営体」ととらえることは、行政の責任の範囲を縮小し、市場化・民営化を重点的に取り組もうとするものです。さらに、府民を「顧客」としてとらえることで、これまで主人公である府民が、誰でもどこに住んでいても、基本的権利が保障されるだけの行政サービスを受けられるという本来の姿を否定し、「顧客」である府民の受益者負担は当然として、行政と府民を自由な私的契約関係におきかえようとするものです。山田知事の「受益と負担の原則」とは、「行政サービスを受ける限り、負担をするのが当然」とするもので、その裏返しが、「負担できないものは、切り捨てる」という「自立自助」の押しつけです。
A「民間企業との協働」は財界・大企業が望む行政の市場開放の道
これまで山田知事は「NPOとの協働」や「府民との協働」などと述べてきましたが、今回初めて「民間企業との協働」という言葉が入りました。「行政と府民・民間企業・市町村等がその能力と適正に応じた役割分担を行い…公的サービスの質的改善を図る」と述べるものの、民間企業との役割分担の柱は「アウトソーシング」と「PFIの導入」となっています。すでにPFIの導入で、これまで地元中小企業に分離分割発注してきた府営住宅建設についても、建築から管理まで数十年にわたり一括して委託することとなり、事実上大手企業しか受注できないようになりました。また、6月議会で「アウトソーシング」の手法の一つである「指定管理者制度」を京都府の施設に導入することが決まりました。これらは、行政の仕事を民間に開放する道を本格的に進め、資本力のある民間大企業に儲かる仕事を提供する以外の何ものでもありません。
そもそも求められる効果的効率的な行政改革は、それを担う全体の奉仕者としての公務員の専門性と継続性、府民の知恵と総意によってこそ、可能であるにもかかわらず、それに反し、行政責任を放棄する方向ですすめようとするものです。現に山田知事は「公務員を1000人減らすことこそ目的」、「国の削減の仕方では足りない」と述べるなど、暮らしを支える仕事の最前線で働く公務員を減らすことを最優先にし、「効果的・効率的な行政経営体制の確立」を名目に、行政の仕事を「大手民間企業」に開放する道を開いてきています。
B「集中と選択」による施策の見直しで、勝ち組応援へ
「経営改革プラン」は「真に必要な行政分野・行政サービスに限られた財源を重点的に投下していく経営感覚を重視した施策体系を確立」するとし、その理由に「平成20年頃には経常的に単年度で約500億円の収支不足」が生じると「財政の厳しさ」を挙げています。そもそも「三位一体改革」とは、国による地方交付税等の財政削減が最大目的であるにもかかわらず、山田知事は「三位一体改革の推進」を求める一方、「プラン」では「平成16年度には国の厳しい地方財政抑制策により約300億円に上る地方交付税等が突然削減され」と指摘するなど、全く矛盾した態度をとっています。「財政が大変」というのなら、まず国の地方財政切り捨て策でしかない「三位一体改革」にこそ、きっぱり反対の態度をとるべきです。
しかも、知事は「集中と選択」として、本来メスを入れるべき京都市内高速道路や不要不急の舞鶴港和田埠頭建設、府が返済を肩代わりする「同和」奨学金償還対策事業などには一切メスをいれず、自治体の仕事である「府民福祉の増進」にかかわる施策は次々と切り捨てています。そして「選択」し「集中」するのは、企業誘致補助金を1社につき5億から20億円に引き上げ、空前の儲けをしている日産の子会社に適用するなど、力もお金もある者への「集中」となっています。これでは、負け組みをいっそう増やす、勝ち組支援の「集中と選択」にほかなりません。
このような総務省流の「経営改革プラン」の推進によって生じる、府民への痛みを覆い隠すため、あらゆる場面で「府民発・府民参画・府民協働」などの言葉を使い、その手法として形だけのパブリックコメント制度等を多用し、そのことをもって府民の意見を聞いたものとみなすことや、また一方では議会の関与を狭めるなどの動きが顕著になっています。
4、「府民一人ひとりの暮らしを支える、憲法を暮らしに生かす京都府政を」
―もうひとつの「改革」こそ、府民の暮らしを守る道
そもそも地方自治体は、地方自治法に規定され、また日本国憲法に明記されているとおり、住民自身の知恵と総意によって、一人ひとりの暮らしを支える組織です。それだけに、すべての府民の暮らしを支えることこそ本来の役割です。しかも、施策の決定と実施は、住民の自治にもとづくものでなければなりません。
かつて、28年間府民によって支えられてきた蜷川民主府政は、府民の暮らしと京都経済の実態や特性から出発した政策と運営を展開しました。そして府民、府職員、市町村あげての総合的な取り組みが、府民の暮らしを支えてきました。そのことは、1978年、蜷川虎三京都府知事が退陣表明したとき、当時のマスコミも「30年近くにもわたって『住民の暮らしを守る』地方自治の精神を貫き通してきた」「“地方自治の灯台”であったと評価してもよいのではないか」(毎日新聞社説)と述べたことに示されています。
いま、長引く不況と小泉「構造改革」によって、府民の暮らしがかつてなく痛めつけられています。そうした時、府民が望むのは、山田府政がすすめる「経営効率最優先」「勝ち組応援」の京都府政ではありません。求められているのは、「府民一人ひとりの暮らしを支える府政」、「憲法を暮らしに生かす府政」への転換―「府民福祉の向上」をめざすという「地方自治の本旨」にたち、本来の役割を発揮する自治体の再生です。
こうした立場から、わが党議員団は、府民のみなさんの要求・運動と結んだ議会での取り組みを行うとともに、来春の京都府知事選挙で勝利し、新しい府政の実現をめざし全力をあげるものです。