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政策と見解

京都府高齢者保健福祉計画について(団見解)

1994/09/14 更新
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1994年9月14日


〈1〉はじめに

(ア)六月定例会での論戦をつうじ、「計画」の問題点がいっそう明らかに

 「京都府高齢者保健福祉計画」が今年3月末、京郡府知事選挙のさなかに発表されました。この計画は、国の「高齢者保健福祉十ヵ年戦略」(ゴールドプラン)に対応する自治体版として策定が義務付けられたもので、府が府下の市町村の計皿をまとめ、1999年までの高齢者施策として策定したものです。
 これまで日本共産党府会議員団は、歴代政府や自民党府政がぶりまく「現在は働くもの6人で1人の老人を支えているか、将来は1人で1人を支えなければならなくなり、日本経済は大変なことになる」などとしたまやかしの「高齢化社会危機」論にたいし、「働き手が支えるのは総人口であり、政府の資料によっても、今も将来も働き手1人で約2人の総人口を支える姿は変わらない。国民に大増税も社会保障の切り捨ても押しつけるものだ」と根本的に批判しつつ、将来の高齢化社会に向け、すべての高齢者とそれを支える家族がともに人間らしく長生きが喜びあえる福祉・保健・医療の抜本的充実を求めてきました。同時に、現在の高齢者や介護にあたる家族の深刻な実態と切実な要求を鯛査し、ただちに改善するよう奮闘してきました。
 高齢者保健福祉計画の策定にあたっても、くりかえし本会議質問や委員会審議でとりあげ、ゴールドプランの枠内にとどまらず、市町村の自主的な計画を尊重しそれをふまえた「計画」とすべきこと、「計画」実施に必要な財源について国に要求するとともに府として財政援助を行うこと、公的な責任での全面的な介護をめざし多様な要求に見合った「計画」とすること、人材確保のための特別の対策、府議会をはじめ市町村議会にも「計画」を示し十分に討議することなどを強く求めてきました。
 さらに、わが議員団は六月定例会において、府「計画」の欠陥を追及してきましたが、その論戦を通じて「計画」の基本的問題点がいっそう浮き彫りになりました。また、本来、知事選後の〝肉付け〟予算としての性格を持つ6月補正予算のなかでも、「計画」実践の初年度にふさわしい予算はほとんど組まれていません。これは「国や府の強力な財政支援をぬきには目標達成は困難」との市町村の不安をいっそう助長するものです。
 またこの間、市町村の高齢者保健福祉計画が発表されていますが、市町村「計画」との関連においても、計画策定を指導した本府の問題点が明らかになってきています。


(イ)府民の立場からの「計画」の抜本的見直しを

 一方、厚生省は、8月2日、「ゴールドプラン」の見直し繁案を発表しました。新「ゴールドプラン」を実施するためには、新たに5年間で2兆円、来年度だけで3300億円の予算が必要になると見込まれていますが、与党の概算要求枠には加えられず、大蔵省も消費税率が引き上げられるなど新たな財源が生じない限り応じないとの態度を明らかにしています。厚相自身が「新ゴールドプランは税制改革ともからんでくる問題」と発言しているように、この時期に見直しを発表したのは、秋に予想される消費税大増税の地馴らしのためにほかなりません。社会保障制度審議会が建議するとしている社会保障の将来像にかんする報告素案が、憲法二五条で保障された社会保障の権利を真っ向から否定して、社会保障を「自己責任」「社会連帯」だと定義し、国の支出をいっそう減らす一方、国民に新たな負担を強いる「介護保険」構想を打ち出そうとしていることなどを合わせれば、国がニセ「高齢化社会危機」論を口実に、国民に社会保障の切り捨ても大増税も押しつけようとし
ていることは明らかです。
 同時に、新「ゴールドプラン」が、ホームヘルパーや特別養護老人ホームのベッド数などの目標を上方修正せざるをえなかったことは、現行計画がいかに高齢者の実情を踏まえていなかったかを自ら証明するものであり、目標の引き上げと充実を求めてきた国民の運動の一定の反映という側面をも持っていると言えるでしょう。
 これらをふまえ、日本共産党府会議兵団は、「京都府高齢者保健福祉計画」についての見解を発表し、明らかになった基本的問題点を指摘するとともに、この際、府民の立場にたって「計画」を抜本的に見直すよう強く求めるものです。

〈2〉「計画」の基本的問題点

(ア)府民の実態と要求にまったく見合っていないサービス目標量

 本来、高隠者保健福祉計画においては、高齢者だれもが、施設においても在宅においても、「健康で文化的な最低限度の生活」、人間の尊厳と人権を保障するための『ケア・ミニマム(最低基準)』とはなにかを住民総意で具体化し、その達成計画を示すべきものでしょう。しかし、計画の核心であるサービスの目標量は、それが実現すればきわめて遅れた現状の一定の改善にはなるものの、府民の生活実態と要求にはまったく見合っておらず、「『いつでも、どこでも、だれでも』必要なサービスを受けられる」ものには程遠いものだと言わなければなりません。


京都府計画にみる保健福祉サービスの目標

ホームヘルプサービス 1,316,302回
デイサービス 884,718回
ショートステイ 48,006回
機能訓練 192,515回
訪問指導 135,319回
痴呆性老人訪問指導 18,757回
老人訪問看護 501,101回
特別養護老人ホーム 6,420床
ショートステイベッド 1,238床
ケアハウス 2、215床
老人保健施設 4,709床
デイサービスセンター 196か所
在宅介護支援センター 178か所
老人訪問看護ステーション 89か所
(府高齢者保健福祉計画より)

【特養・ケアハウスは必要水準の三分の一】

 先進諸国では、高齢者の介護を社会が支えるとともに、施設入所の希望を保障するために、特別養護老人ホームとケアハウスを合わせた高齢者福祉施設が、高齢者人口の10%から20%確保されており、もっとも少ない旧西ドイツでも5.4%整備されています。日本でもこの考え方にたって、せめて旧西ドイツ並に整備する必要があり、本府では特養9000床(高齢者人口比2%)、ケアハウス1万3500床(同3%)、合計2万2500床(同5%)まで増やすことが求められています。しかし、今回の「計画」では特養6420床、ケアハウス2215床、合計で八8635床と、その3分の1強にしかすぎません。現在、府内で約2000人にものぼるお年寄りが特養への入所を希望しながら、1年半から2年もの待機を余儀なくされ、家族の方々が大変な苦労をして介護にあたっておられます。さらに「この3年間で待機者が倍増した」との報道もあるように、将来的にますます入所希望者が増加することが予想されますが、「計画」はこれに応えるものにはなっていません。

【府立特養もつくらず】

 また特養において、重度の痴呆症など重い障害を抱える高齢者を人間らしく手厚く処遇できるよう、そのモデル的役割を持った府立特養ホームを府立の病院に併設するかたちで建設することが緊急に求められていますが、こうした府民の切実な要求にも応えようとしていません。


「在宅痴呆性老人の20人に1人しか対象にしていないホームヘルプサービス」

 在宅介護を支える三本柱のひとつであるホームヘルプサービスは、本来毎日24時間体制が必要で、当面少なくともく家族がゆとりを持ち、働きに出れるようなサービスの確立が急務となっています。国基準の「週3回から6回」という不十分な派遣回数の枠にとらわれず、24時間対応で夜間や休日の派遣を行う積極的な自治体も生まれているなかで、本府の「計画」は、在宅の痴呆性老人ではたった20人に1人しか対象になっていないむのです。「寝たきり」の高齢者の場合も同様に対象が狭められており。結局、「計画」は在宅の「寝たきり」や痴呆性老人を放置するに等しく、依然として家族の介筬を当てにしたものだと言わざるをえません。


市町村が目標量算定の基準とした保健福祉サービスの提供水準

在宅福祉サービス

在宅要援護老人
寝たきり老人 要介護痴呆性老人 虚弱老人
ホームヘルプサービス 週3~6回 週3~6回 週1~2回
デイサービス 週2~3回 週2~3回 週1~2回
ショートステイ 年6回 年6回 年1~2回


保健サービス


在宅要援護老人
寝たきり老人 要介護痴呆性老人 虚弱老人
機能訓練 週2回(おおむね26週) 週2回(おおむね26週) 週2回(おおむね26週)
訪問指導 訪問指導 年6~12回 - 年6~12回
訪問口腔衛生指導・訪問栄養指導 年各1回 - 年各1回
痴呆性老人訪問指導 - 年3回 -
老人訪問看護 週1~2回 - 週1~2回

(府高齢者保健福祉計画より)

【給食・入浴サービスは明確な目標示さず】

 また、在宅での生活を支える給食サービスや入浴サービスについては、努力方向に掲げるだけで、国と同様、なんら明確な目標を示していません。これでは府民は「計画」によって生活がどう支えられるのかの見通しすら持つことができません。

(イ)なぜこのような目標量にとどまっているのか

 府「計画」の目標量は、「府が広域的な観点から各市町村と調整して設定した数値の積み上げ」だとしています。本来、市町村が計画を策定するうえで、安易にコンサルタント業者に委託せずに、市町村自身が充分な実態調査をおこない、策定委員会への介護家族をはじめとした住民代表の参加を保障し、行政内部や議会での討議などをつうじて、実情と住民要求を反映したものにするよう努めなければならないことは当然です。この点で各市町村のとりくみの問題もあるでしょう。しかし同時に、府が市町村にたいし、どのような条件と基準のもとに目標数値を出すよう指導したのかが問題であり、本府の責任がきびしく問われているのです。

【国の基準を上から下へあてはめ、要援護高齢者の予想数は過少に】

 府「計画」では目標を設定する前提である寝たきりや痴呆、虚弱など在宅の要援護高齢者の数について、目標年度である1999年では出現率6.0%と推計していますが、これは現状(92年)の6.6%より低くなっており、過少に見込まれていると言わなければなりません。特に、府が計画策定のための「指針」のなかで、①社宅の要介護痴呆性老人は「在宅痴呆性老人の15%」という〝非現実的な〟出現率で一律に計算する、②寝たきり老人は将来の人口推計に現在の出現率をかけて計算する、③寝たきりで痴呆の老人は「寝たきり」としてだけ計算するなど、市町村に不十分な国の計算式をそのまま押しつけ、実態を無視していることは重大です。将来、後期高齢者が増加すれば出現率が上昇することは明らかですし、「ぼけ老人をかかえる家族の会」が全国の市町村に出した要望書では、「痴呆性老人は、その症状が軽度であっても、介護は二十四時間、心身ともに休まることはありません。また、この時期に適切な対応・介護ができれば、痴呆の進行を遅らせることができるともいわれています」として、「軽度・重度を問わず全員を『要介護老人』と位置付け、施策の対象に」と訴えています。このように、立ち遅れている痴呆性老人の施策を充実させるため、実情を充分に踏まえた対象の抜本的な拡大こそ求められているのです。このように絞り込まれた対象者に、さらに「必要度」をかけて割り引いて目標量を算出しているため、極端に低い目標にとどまっているのです。


サービス目標量の算出式
対象者数×目標水準×必要度=目標量

京都府の高齢者と在宅要援護老人数の状況

1992年(平成4) 1999年(平成11)
数 出現率% 数 出現率%
65歳以上の人口 327,429 12.6(高齢化率) 450,164 16.3(高齢化率)
寝たきり老人 8,175 2.3 9,493 2.1
要介護護の痴呆性磯人 2,794 0.8 2,672 0,6
虚弱老人 12,338 3.5 14,787 3.3
合計 23,307 6.6 26,952 6.0
(府高齢者保健福祉計画より)


【市町村の自主性、独自性より国基準や圈域の「調整」を優先】

 さらに、府は「指針」のなかで、特別養護老人ホームベッド数の目標について、「高齢者保健福祉十ヵ年戦略では、1.1%の水準となっているので、これと大幅に乖離しない割合とすること」などと最初から国基準の枠内で納めるように指導。これは現在でもすでに入所者が国基準の1.1%を上回っていながら、なお待機者がいる市町村にとっては、事実上の「後退」目標でしかありません。市町村が特養設置の必要性を検討しながら、府による福祉圏域ごとの「調整」によって断念せざるを得ない事態まで生じています。また、「主体性をもった計画をと言われたが、現実には府の指導が入って......」「ケアハウスについて、府へ0.5%で計算して目標値を出したら、0.3%でいいといわれた」と述べている市町村の計画策定担当者もあるなど、府の「指導」が各市町村の実態や住民要求を踏まえた市町村の自主性、独自性ある「計画」策定の大きな障害となっていると言わざるをえません。


「国や府の財政援助策は示さず、国基準の達成だけ迫られる市町村」

 また、国や本府の具体的な財政援助策は示されず、市町村の担当者からは、「府からは『目標が低い』と指摘されたが、財源については何も言わず。財源を考えたらへ計皿は)一年かけてもできない」「交付税だとはっきりしない。国や府の手厚い援助が必要」などと、困惑の声も出されています。財政的裏付けのないもとで、それが事実上の「制約」になり、実情に見合った目標量を掲げられないという側面も否定できません。

(ウ) マンパワーの確保策はきわめて不十分

 このような不十分なサービス目標量にたいしても、それを担うマンバワーが確保されていないことも荒大です。

【ホームヘルパーの8割は非常勤で、身分保障も社会保険もなし】

 ホームヘルプサービスの目標回数は6.5倍になるのに、ヘルパーの増員計画は2.8倍にとどまっており、しかもその大半は時給1000円前後のパート、いわゆる登録ヘルパーです。現在でも、京都府内のヘルパーのうち、常勤はわずか2割にすぎず、あとの8割は非常働ですが、それをさらに進めようというのか今回の計画です。京都市では同和対策を除いたすべてが民間委託のパートというものです。「計画」では「登録ヘルパーは、利用者の多様な二ーズに応じたサービスを提供しやすい」などのメリッ卜があるとしていますが、常勤者を中心とした体制を組んでこそ責任ある対応が可能であり、きわめて安易で安上がりな方針だと言わなければなりません。また、常勤ホームヘルパーの人件費は、国基準では1人あたり年間340万円の報酬となっていますが、実際には都市部では500万円前後は必要であり、その差額は市町村の大幅な持ち出しとなっています。さらに登録ヘルパーの場合は、身分の保障もなく、報酬の改善、健康保険の適用や退職金制度の確立が急務となっています。ヘルパーには様々なケースに適切かつ柔軟に対応する高い専門性が求められます。抜本的な待遇改善と研修制度の充実をはかりつつ、常勤換算で現行「計画」の2倍のヘルパーを配置すべきです。


グラフ2点挿入(PDFより)


【特養ホーム職員の対入所者比配置数は不十分な現行水準のまま】

 現在の特別養護老人ホームの職員は、入所者2.5人に1人の割合で配置されていますが、「計画」が達成されても2.4人に1人しか配置されず、ほとんど改善されません。現在でも職員の労働強化は限界に達しており、これでは「寝たきり」をなくすための手厚い介護などは到底不可能です。医師、看護婦、PT(理学療法士)、OT(作業療法士)の配置を含め、入所者1人に対して職員1人の配置と処遇の改善などかぜひとも必要です。

特養ホーム職員の対入所者配置数

1992年度 1999年度
入所者数 3,385人 6,420人
施設職員数 1,367人 2,709人
職員1人あたりの入所者 2.5人 2.4人
(府「計画」より)

グラフ1点挿入(PDFより)

【圧倒的に不足するPT、OT】

 病院や特養への荒極的配置や市町村でのデイケアの実施、訪問看護などを考えれば、PT、OTの大量養成、配置が急務となっています。イギリスなみの配置をするためには、全府でPT、OT合わせて1500人が必要となりますが、『計画』では市町村の直接雇用、委託分で117人にしかなっておらず、圧倒的に不足しています。とりわけ、専門職を養成する研修・教育機関の充実は、府の役割として大きく求められているものです。PT、OTを大量に養成するため、府立医療短期大学に課程を設置することを、検討課題にとどめず、緊急に具体化すべきです。
 また、在宅高齢者への保健サービスである機能訓練は6.2倍、訪問指導は3.2倍にする
のに、サービスの中心となる府下の保健婦の増員計画は1.4四倍にすぎません。


【「地方行革」による自治体職員合理化攻撃のなかで必要な体制を確保できるのか】

 自治省は「地方行革」をいっそう推進し、〝リストラ"の強行と民間委託の推進をはかるとしていますが、自治体の福祉・医療行政にも重大な影響を及ぼさざるをえないものです。市町村職員の総定数が削減されようとしている中で、高齢者対策の関係職員の大幅な増員をどのようにすすめていくのか、府は明確な方針を示すべきです。

(エ) 財政計画がなく、市町村への財政支援策もあいまい

 「計画」の達成に必要な財政計画がなにも示されていないことは、きわめて無責任です。また、本府の市町村財政支援策についてはあいまいで、いくつかの項目で一般的な強調をしているだけです。長引く深刻な不況と失政による府税収入の落ちこみなど、きびしい財政状況にあるからこそ、府民に責任ある明確な財政計画を示すべきです。
 財政的裏づけの弱さなとがら、ホームヘルプサービスの国が示した目標量の確保ですら、「可能だ」と答えている府内の市町村はわずかに四分の一にすぎません(京都府保険医協会アンケート。措置権委譲の際にも、自治体側からは「急速な高齢化に対応するためには、どうしても(地方交付税とは)別枠の財源がいる。地方交付税のような上限付きの交付金ではだめだ」(京都府町付会長の野中一二三園部町長)との強い要望もだされているように、自治体と住民に負担を押しつけるの国の安上がりな政策を転換させることがどうしても必要です。府は「計画」のなかに、国庫補助率の引き上げや基準、単価の改善、診療報酬の改善など、国に対する要求をはっきりと明記すべきです。
 同時に本府として、大企業本位の開発やゆがんだ同和行政をきっぱりと改めるなどして、独自の福祉財源を確保し、市町村への支援を抜本的に強化すべきです。


(オ) 医療との連携が不明確、保健所の統廃合を先取り

 在宅での肩護・介護を安定的に支えるために、医療の充実は一体のものとして考えなければなりません。ところが府計画ではじめから医療が別扱いとなっています。すぐに入院できる、いつでも往診してもらえる病院・開業医など、医療機閧の整備・充実は府に求められている大きな役割であり、在宅看護・介護を根底から支えるものです。しかし、北部などで開業医の高齢化がいっそう進行するなど、事態はきわめて深刻です。
 また、老人訪問看護は在宅介護を支える大きな力となるものです。「計画」では89ヵ所の老人訪問看護ステーションに227名の看護婦を配置し、年間50万回を超える訪問看護を
行なうとしています。これでは平均して一人の看護婦が1日に9回も訪問することになり、必要な看護すらできなくなる恐れがあります。さらに事務職員もほとんど配置されず、煩雑な事務も看護婦が行なわなければなりません。6月補正予算では、ステーション設置費として1カ所あたり50万円が計上されましたが、これではまったく不十分です。国にたいして診療報酬の改善を求めつつ、現行でも民間まかせにせずに、府として、設置運営に特別の助成をおこなうべきです。
 先の国会において、公衆衛生分野での国の責任放棄につながる保健所法の改悪が、わが党を除く緒党のなれあいによってまともな審議も抜きに強行されました。これは保健所の数を半分に減らすとともに、人件費など財政的裏付けを抜きに市町村保健センターに対人保健サービスを押しつけるものです。本府が一昨年に策定した「京都府域保健医療計画」では、保健所を「対人保健サービスを総合的に展開する公衆衛生の中心的機閧」としてさらに充実することを明記しているにもかかわらず、今回の高齢者保健福祉計画では、対人保健サービスにおいて保健所の果たす役割かほとんどふれられていません。これは本府が、保健所の統廃合を先取りしてきたことに他ならず、その責任は重大です。


(カ) 利用者の費用負担問題にはいっさいふれず

 府民が各種の福祉サービスを受ける場合の費用負担がいったいどうなるのかがまったく明らかにされていません。この点でも「『いつでも、どこでも、だれでも』必要なサービスを受けられる」保障はまったくないと言わなければなりません。
 現状でも、特別養護老人ホームの費用徴収基準が改悪され、年収12万円を超えるすべてのお年寄りからも費用を取り立てるというあくどいやり方がすすめられようとしています。公的なホームヘルプサービスも、週に3回利用すれば月額最高2万円以上の負担を強いられます。さらに、老人医療費の一部負担金や入院給食費、月数万円にも上るおむつ代など、高齢者の福祉、医療にかかる経済的負担が府民に重くのしかかっています。また、民間シルバー産業のおこなう訪問介護や入浴サービスは1回1万円から2万円。有料老人ホームの入居費が数千万円にものぼるなど、重大な社会問題にもなっています。これでは事実上、かなりの所得がなければ、福祉サービスを受けられないことになってしまいます。将来にわたって、だれもが安心してサービスを受けられるように、基本的には公費負担を原則にするよう「計画」に明記すべきです。


(キ) 同和地区だけを特別扱いし、「特別措置」の事実上の継続・拡大につながる危険

 府『計画』では、「地域の実態を踏まえた施策の推進」と称して同和地区のみを特別扱いし、「この計画の推進に当たっても、同和問題の解決に寄与するよう配慮することが必要」「同和地区の高齢者の実態を踏まえた対応が図られるように努めます」としていますが、97年の同和対策特別措置終了後も事実上特別措置の継続・拡大に道を開きかねない危険性があります。全国的に「部落解放同盟」一部幹部が高齢者保健福祉計画に閧連して策動を広げようとする動きがあるだけに、差別の固定化・拡大につながる行き過ぎた、ゆがんだ同和行政はきっぱりと改め、同和地区の福祉問題も一般施策のなかで対応するようにし、特別扱いは一切行うべきではありません。

(ク) 公的責任を放棄して府民に自立自助を強いる「総合保険会社」論の高齢者版

 以上のように、本府の高齢者保健福祉計画は、サービス目標、マンパワー対策、財政計画など面において、府民の福祉とくらしを守るという京都府本来の役割を果たせるものとは到底いいがたいものです。「計画」がいう「社会全体・地域全体で支える仕組みの構築」も、「ニーズの高度化・多様化に対応するサービス供給主体の多様化・重層化」も、結局のところ、国の悪政を不動の前提に、そのツケを高齢者とその家族に押しつけ、民間営利企業のシルバー産業への参入のバックアップするものにほかなりません。まさに公的責任を放棄し、府民に自立自助を強要しながら「民間活力」に依存するという、荒巻流「総合保険会社」論の高齢者版にすぎません。


〈3〉府「計画」の抜本的見直しと同時に、当面の緊急対策を


 高齢者とその家族にとっては高齢者対策の強化は将来の問題ではなく、まさに現瞬間の問題です。本府として、次に示す項目については「計画」に盛り込みつつ、当面の緊急対策としてもただちに積極的に具体化するよう求めるものです。

①重度の痴呆性老人も受け入れるなどモデル的な機能をもっ、病院併設の府立の特別養護老人ホームを建設すること。
 また、約2000名の待機者をただちに解消し、住みなれた地域で暮らせるよう都市部での民間特養を大量に建設するため、用地取得補助制度の創設、補助単価の引き上げや運営費補助の引き上げなどを府独自でおこなうこと。

②ホームヘルプサービスについて、24時間体制をめざしつつ、当面必要な人には週7日間、夜間の派遣も実施すること。
 そのため、ヘルパーの現府計画目標を常勤換算で2倍化し、常勤を中心とした配置をおこなうこと。全員に実技実習もともなう1級研修と継続研修を保障するとともに、身分の保障、健康保険の適用、退職金制度の確立など、処遇を抜本的に改善すること。
 また、高齢者の実情に応じた積極的なサービスを提供できるよう、専門性を持ったコーディネーターを配置すること。

③全府で少なくとも週2回以上の入浴サービス、1日1食以上の給食サービスをおこなう
こと。

④保健・福祉の専門職貝や福祉施設職員の養成と待遇改善、配置基準の見直しを抜本的にすすめるとともに、理学療法士・作業療法士の養成のための府立医科大学医療短期大学部への課程の設置を、ただちに具体化すること。

⑤65歳以上の老人福祉医療制度の一部負担をただちに廃止し、所得制限を大幅に緩和して老人医療の無料化を拡大すること。また、70歳以上の老人保健法にもとづく一部負担分をなくすよう助成すること。

⑥老人訪問看護ステーションについて、看護婦の増貝と事務職員の配置ができるよう、設置・運営への助成をおこなうこと。

⑦高齢者のための住宅改造助成制度を創設すること。また、高齢者向けの公営住宅の建設、家賃補助制度の創設などにより、高齢者向け住宅を大量に確保すること。

⑧自立を支える介護補助器具のリース料負担に助成制度をもうけるとともに、全市町村に展示、調整、修理もおこなう補助器具センターを設置すること。

⑨介護激励金を、介護労働に対する手当に改め、当面、月額1万円に倍増すること。

⑩さまざまな「家族の会」をはじめボランティアの善意と自発性が正しく生かされるよう、活動の拠点となる施設の整備、希望に応じた研修制度の確立、財政援助、補償制度を確立すること。

 わが議員団も、これらの実現に向けて、引き続き府民とともに全力を上げるものです。