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政策と見解

大企業本位、「民活」方式をやめ、住民の立場からの「学研都市計画」の抜本的見直しと住みよいまちづくりへ三つの転換を

1995/01/01 更新
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提言 ●学研都市開発の問題点と今後の課題

1995年1月

日本共産党京都府委員会・同山城地区委員会
日本共産党京都府会議員団
日本共産党田辺町・精華町・木津町議員団


 関西文化学術研究都市榊想が発表されて十六年、また、京都府の建設基本計画案が発表されてから十年が経過、「まちびらき」などの派手なセレモニーにもかかわらず、いま、そのありかたがあらためて大きく問われています。
 マスコミ各紙の報道のなかでも共通して、研究施設の誘致や企業進出が停滞していることにくわえ、生活施設整備、交通、教育、自然・環境、公害、自治体財政問題などの「課題は山積」「生活者の声は届くか」「欠陥都市」との指摘や批判かあいついでいます。
 また。わが党がこの間おこなった、田辺町、精華町、木津町の町長との懇談でも、膨大な財政負担や既存集落の整備の遅れなど、住民と接触する第一線の自治体としての大きな悩みや要望が続出し、関係者、住民のなかからも、「道路の整備が遅れ、消防自動車も通れないまま」「中学校のプールが老朽化して使えないのに放置されている」「農業用水が汚染されて農作物に被害がでている」など現状への批判と切実な要求がだされています。
 さらに、ここにきて、計画の提唱者や推進者の立場にある人からも「緑をめくったままだよ」「二十年まえたったらやり直せというのだが」(奥田東・元関西学術研究都市調査懇談会座長)、「総合病院や小・中学校などの整備が学研都市計油全体のバランスのなかで考えられていない。下水道も未整備だ。」(宇野収・関西文化学術研究都市建設推進協議会会長)といわざるをえなくなっていることも計画の大きな問題点が露呈していることの反映です。
 今日あらわれている問題や矛盾は、見通しの甘さや社会・経済情勢の変化だけでなく、中心的には、計画そのもののもっている根本的欠陥によるものである--日本共産党は、こう考えています。


一、「学研都市計画」はなにをもたらしたか

 ディベロッパーの開発優先、また、民間企業まかせでは、利潤と採算第一の企業の動向に左右され、結局、そのつけが住民と自治体におしつけられることになることは、日本共産党が当初から指摘してきたことです。


「宅建開発」の指摘が現実のものに

 そもそも「学研都市計画」が浮上した予定地一帯は、住宅都市整備公団が1071ヘクタール、近鉄、京阪電鉄、住友商事、近鉄不動産、日本生命、三井不動産、野村不動産の大企業七社が635ヘクタールなど、ディペロッパーがきわめて安い価格で買い占めていた土地でした。日本共産党は当初から、この「学研都市計画」がこれらの買い占めた土地を一大宅地化しようとする大企業のねらいにそったものであり、「宅建開発」が中心であること、しかも、同時に開発地域への入居が予定どおりすすまない可能性が高いことも、指摘してきました。
 京都府の建設基本計画案は、これらの大企業などが保有している丘陵部をクラスターに指定し、市街化地域につぎつぎ編入し、大企業の宅地開発を誘導・促進してきました。
 実際の進行はどうだったでしょうか。
 おさえられていた宅地開発が許可された結果、安く買い占められた土地が、百倍以上もの高値で売れるようになり、巨大な利益を保障するものとなりました。さらに五年前の府建設計画では、開発面積がさらに266ヘクタールも拡大され、総開発面接の六割以上の1204ヘクタールが住宅地ゾーンに指定されました。山がっぎつぎ削られ、宅地が造成され、「宅建開発」の様相が現実にあらわれてきました。しかし一方、日本の地価上昇とその後のバブル崩壊のなかで、精華・西木津地区では入居が1割にとどまるなど、住宅建設そのものがすすまないという状況が生まれています。最近では大阪と学研都市をむすぶ近鉄「京阪奈新線」周辺用地買収にともなう不正事件も発覚しています。
 一方、学術研究施設や先端企業などの誘致も、「民間活力の導入」という名のもとで、営利性の高い研究開発施設だけがすすみ、民間活力導入ですすめられた国際高等研究所は、企業からの寄付目標五百億円にたいし、70億円しか集まっていません。また、学研都市の中心地区といわれる精華西木津地区では稼働中の民間研究施設が四施設、建設・計画中が五施設と計画を大幅にしたまわったままです。さらに、先端企業の集積をすすめるとした木津南地区は広大な緑をけずりとったものの、立地したのはバイエル薬品一社だけです。
 あるいは、国立の国会図書館関西館の建設はようやく軌道にのったものの、国立総合芸術センターは構想の域をでず、国立文化財総合機構構想は国が「現段階では不要」として宙に浮き、予定址を先行取得していた奈良市は、毎年一億六千万円の金利負担にあえいでいます。


既存集落の整備は遅れ、「開発」のツケは自治体・住民に

 京都府の建設基本計画案は、一九九九年には関係三町(田辺町、精華町、木津町)の人口を二十五万人にする計画です。
 日本共産党は、この計画について
○これはほぼ京都市伏見区の規模に匹敵し、道路、上・下水道、保育所、小・中学校などのに生活基鴛に要する費用は、数千億円にのぽる
○短期間でこれだけの人口急増を前提にした開発計画は、財政基盤の弱い地元自治体に限度をこえる多大な負担をしいることになる
○開発地域への財政投資が集中するため、既存地域の生活基盤整備が遅れる、などを指摘しました。
 それから十年たちましたが、その一つひとっが現実に露呈しています。既存集落での道路や公共施設などの基盤整備が遅れ、全域が学研都市にはいる精華町、木津町の下水道普及率は、開発地域では百パーセントですが、開発地域以外の地域では、3年前からやっと下水道管の埋設がはじまったところで「下水道は学研開発で逆に遅れた」との住民の声も当然です。その上、日本一の地価高騰を引き起こし、固定資産税は大幅に上昇するなど、住民に大きな負担を負わせました。
 開発地域でも、「二十一世紀モデル都市」との誇大広告とは襲腹に、小学校の建設は予定より遅れ、交通の便はバスが一日数本など極端に悪く。商店や公共施設は皆無に近い状況で、入居された住民のみなさんからも「こんなはずではなかった」と多くの不満と要求がよせられています。また、研究所や先端産業の誘致は、当初一部から「期待」のあった地元雇用や商業の振興にもほとんどむすびつかないということもはっきりしてきました。
 地元自治体への影響も深刻で、立地企業や新入居の住民からの固定資産税や地方税の増収も見込めず、「期待」ははずれ、精華町では起債残高は年間予算をこえてぃます。また、木津町の開発予定面積は一千ヘクタールをこえますが、この面積は京都市が開発した洛西ニュータウンの240ヘクタールの4倍をこえる大規模なものであり、木津町がとりくめる限界を大きくこえるものであることは明白です。


自然と緑、歴史的遺産も「開発」の犠牲に

 木津川とその周辺に広がる田畑と里山、オオタカの生息も確認された豊かな自然と緑、日本の各年代の歴史が刻まれている歴史的文化財の存在などは、かけがえのないものであり、京都府民の誇りです。
 この豊かな自然と緑、文化財を保全し、未来にひきっぐことは京都府民の大切な使命といってもいいのではないでしょうか。
 また、同時に、木津川左岸地域は、過去の大水害の経験からも防災対策がとくに必要な地域で、丘陵部の多くは、砂防指定地、保安林に指定されてきました。
 近畿地方は、地震予知連絡会によって地震の危険の大きい「特定観測地域」に指定されています。綴喜・相楽は、地震エネルギーの蓄稜されている無震地帯であるのに地震対策はまったく放置されてきました。
 また、治水対策についても調整池方式でだいじょうぶなのだろうかと、学研都市開発での防災対策に不安の声がでています。
 ところが、十六年の開発のなかで、山城地方のかけがえのない自然と緑、地が、野ざらしのまま放置され、学研都市公園がつくられた永谷池周辺からは、オオタカが姿を消すとともに、野鳥は種類、数ともに激減、かわりにカラスが群れをなすという状況になって
います。
 大規模に里山を開発した結果、タヌキやウサギなどの小動物や野鳥が大量に追い出され、現在までのところなんとか自然が保たれている木津川河川敷に移動するということすらおこっています。
 このようななかで、オオタカやイタセンパラなど貴重な動植物の保護や上人ケ平遺跡などの文化財の保全、ゴルフ場計画のあった水辺ランド構想反対の運動がとりくまれ、一定の成果をあげてきていますが、これらの運動に示されている住民の願いをいかし、自然と緑、歴史的遺産の破壊に歯止めをかけることは、直面する重要な課題となつています。
 学研都市区域周辺でも、不動産業者が開発を当てこんで買収したが宅地開発できずに売れ残った山林が、産廃業者の手に渡り、山土砂採取され、その跡地に大量の残土・産廃がもち込まれ大問題となっています。
 自然や緑の破壊とともに、生物、科学、先端技術などの研究・開発をおこなう研究所などの公害問題にたいしても大きな不安の声がだされるようになっています。そして、府が公害対策に責任をもとうとしないことや関係自治体では独自にはなかなか必要な対応がとれないことの悩みもだされています。

二、日本共産党はこう考えます


このように、大企業の宅地開発願望にひきづられたままの開発と「民活」まかせの無責任な「計画」を今後も続けるなら、住民の毎日の暮らしにとっても、地元自治体にとっても、山城地方のかけがえのない自然と緑にとってもたいへんなことになる、このことがいよいよはっきりしてきたのではないでしょうか。
 学研都市建設計画は、そもそも国の決定した「基本方針」に基づいて、知事が地元自治体の頭ごしに「すばるプラン」や京都府総合開発計画など上位計画にあわせて決定し、地元自治体と住民に押しつけたものであり、今こそ地域住民の立場から抜本見直しが必要です。
 同時に、この間のバブル崩壊と不況の深刻化のもとで、多くの開発が停滞ないし、スローダウンを余儀なくさせられており、その点でもいま、抜本的な転換をはかる格好の時期ともなっています。


日本共産党の一貫した主張と提案

 日本共産党は、構想発表以来、その節目ごとに政党として府民にたいする責任をはたす立場から、明確な見解表明と提案をおこなってきました。その主なものは、次のとおりです。
 また、京都府議会や各町議会で、学校、道路など切実な公共施設整備や財政問題、自然や文化財の保全、公害防止問題などについて、繰り返し要求してきました。

〇「関西文化学術研究都市京都府計画案に対する見解」(1984年9月)
--この見解は、京都府の建設基本計画案の発表に際してのもので、この建設計画のねらいと背景は大手不動産の買い占めた土地の大規模な宅地化にあり、学術研究施設などの立地は計画どおりすすむ保障がないこと、生活基盤整備などの責任の所在が不明確で、結局、地元自治体に膨大な負担がかかること、自然や環境破壊の危険があることなどを指摘しました。

 また、この見解では、学研都市の構想が、関西財界の「80年代の近畿地域産業ビジョン」や京都財界の「関西学術研究都市先端技術産業ゾーンの構想」など財界構想にそったものであることも明らかにしました。

〇「『学研法』は進出企業優遇、地元負担押しつけ、農地と環境破壊促進法」(1987年5月)
-これは、国会で関西文化学術研究都市建設促進法が可決・成立したことに際してのもので、この法律が、財界主導の計画を国家事業として権威をもたせ促進させることをねらいとしたものであるとともに、都市施設整備などへの国の責任はあいまいにしたまま、進出企業には税の減免をすすめ、乱開発にたいする規制の緩和をすすめるものであるとの本質を指摘し、批判しました。

〇「誰のための『学研都市』建設か-
府建設計画の発表にあたって」(1988年4月)
-この見解は、京都府が「関西文化学術研究都市(京都府域)の建設に関する計画」を策定し、総理大臣の承認をえたことに際してのもので、一九八四年の京都府建設基本計画案の発表に際してのわが党の見解で指摘したとおりの問題点が具体的にあらわれていることを指摘し、学研都市計画の見直しと住みよいまちづくりへの転換をよびかけました。

○京都府知事選挙での不破哲三・日本共産党委員長の演説(1994年4月。田辺中学校にて)
-この演説は、日本共産党の党首が山城地方におもむき、地域の住民のみなさんに直接、学研問題についての考えを訴えたものです。
 演説では、学研都市計匝の現段階を総括して、第一に国のプロジェクトでありながら、国が財政面の責任はもたず、地方自治体に膨大な負担を強いるものになっていること、第二に、大開発計画でありながら、企業まかせで責任をもつ中心がなく、ゴミや下水を開発区域内でどう処理するかという計画もない「欠陥都市」構想であること、第三に公害対策にたいしまったく国も府も責任をもっていないこと、など住民にたいし無資任きわまりない計画であることを批判しました。
 学研都市構想発表以来、十六年間の進行と現状は、学研都市構想をバラ色にえがいて推進をはかってきた、国、府、財界の主張か、「学研都市計画」の問題点を具体的に批判し、見直しへの責任ある提案をおこなってきた日本共産党の主張か、いずれが正しかったかをはっきりと示しています。


いま、三つの転換にふみきろう

 計画の矛盾や破綻のなかで、国や府、財界も都市づくりにっいて「あくせく急いでできるものではない」(字野収氏。「毎日」12月14日)、「都市づくりというものは焦ってはいけない」(荒巻禎一京都府知事。「京都」11月21日)と語調をあわせ、従来のような二路邁進」ということができなくなっています。国土庁は、ゆきづまった学研都市計画をとりつくろい、新たな装いですすめるために「セカンド・ステージプラン推進委員会」を設置し、これまでの構想の事実上の見直しと第二段階の整備計画の検討にはいるとしています。
 しかし、すでに指摘してきた、学研都市計画の基本的問題点(財界の利益と宅地開発優先、民活依存で国、府が住民にたいする責任を果たさなどの見直しなしには、新たな破綻や矛盾をうみだし、なによりも住民の願いの実現と直面する課題の解決にならないことは明らかです。
 日本共産党は、新たな段階にはいった学研都市問題の現段階をふまえ、その抜本的見直しと住民の立場にたったまちづくりへ、次の三つの転換を柱とした提言をおこなうものです。


提言1
大企業本位・「民活」方式からの転換。学研法・府「建設計画」を見直す。

新たな大規模宅地開発の中止、開発規模を縮小する。
①府の学研都市「建設計画」を抜本的に見直し、大企業および住宅都市整備公団の保有地での新たな大規模宅地開発、立地施設・立地企業の決まっていない地域の先行開発はストップ、開発規模を縮小する。
②関西文化学術研究都市建設促進法を地元の意思を反映できるよう抜本的に改正し、企業優遇の税減免をやめ、生活環境整備にたいする特別な国庫補助制度を設ける。
③大規模宅地開発内の必要な公共施設は、開発者負担とする。
④予定されている国立国会図書館関西館(仮称)、勤労体験プラザ(仮称)などは、地元に負担を押しつけず、府民、住民にとって利。用しやすく、よりよいものをめざす。


提言2
生活環境整備中心のまちづくりへの転換。既存地域の遅れの打開に力を注ぐ。つりあいのとれた地域整備をすすめ、防災対策を抜本的に強化する。

①住民と自治体がまちづくりの主体であることを明確にする。そのための住民参加のまちづくり協議会を設置する。
②直下型大地震に対応できるよう、ライフラインや公共施設の耐震化をすすめるなど、地震につよいまちづくりをすすめる。人と装備の両面で消防力を強化し、耐震能力のある地下貯水層槽の設置、梯子車の配置などをすすめる。
③町の総合開発計画は開発規模を縮小したものに見直し、住民のための生活基盤整備、教育・文化・スポーツ・福祉施設の建設を促進する。農業、商業、中小企業、地場産業の発展をはかる。
④住民合意と環境保全を前提に、遅れている幹線道路の整備、鉄軌道の新設・改良、バス路線の増設、増便をすすめ、交通混雑を抜本的に改善する。
・都市計画道路「山手幹線」をすすめる。
・府道枚方山城線、山城大橋、玉水橋のかけかえや生活道路整備をすすめる。
・近鉄東生駒から祝園・高の原への新線建設(京阪奈新線)、近鉄京都線の輸送力増強・施設の改善。
・JR奈良線の複線化の促進と必要な新駅の設置。JR学研都市線の全線複線化とJR片奈新線、JR関西線加茂以東の電化をすすめる。
⑤木津川上流流域下水道終末処理場は開発規模の縮小に対応した見直しをおこない、建設を急ぐ。既存集落の下水道整備を優先的にすすめる。
⑥ゴミ処理施設の整備は自然で生活環境に配慮してすすめる。
⑦公立山城病院の改築に際し、相楽地域の中核病院として充実させるとともに、新しい医療施設を整備・充実する。


提言3
かけがえのない自然と緑、文化財保全優先への転換。
公害規制の確立、住民参加の環境アセスメントを実施する。

①自然環境、埋蔵文化財の保全のために、自然環境の改変は最小限にとどめ、住民と専門家の参加する環境アセスメントをおこなう。
②進出企業にたいし、公害規制、公平な負担、地域振興への協力をおこなわせるとともに公害防止の責任をはたさせる。府は公害防止協定に当事者としてくわわる。
③立地するハイテク・バイオの研究施設や企業の公害防止、化学物質や放射性物質の安全管理。廃棄物の厳正な処理。公害発生時の対策などについて、京都府公害防止条例を改正するとともに、京都府が責任をもって、監視・対応できる部門を確立する。
④オオタカの生息が確認された里山の良好な自然・環境を周辺の山林を含めて保全する。
⑤開発は治山・治水対策の進行にあわせ、その規摸と進行をおさえる。
⑥上人ヶ平遺跡、鹿背山城趾などを遺跡公園として保存する。
⑦木津川河川敷は、残された貴重な自然空間として自然環境・生態系の保全につとめる。
⑧関西文化学術研究都市建設促進法の農地用途変更、保安林解除など規制緩和条項を削除する。
⑨祝園弾薬庫を撤去し、緑と豊かな自然を残す。