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政策と見解

震災対策の抜本的強化と、住民のいのちと安全が第一の政治への転換を

1995/02/18 更新
この記事は 28 分で読めます。

1995年2月18日

日本共産党京都府委員会
日本共産党京都府会議員団
日本共産党京都市会議員団

阪神大震災の教訓を生かし地震に強い京都をつくる緊急提言(案)


-目 次-

救援復興にあらゆる支援を

一、阪神大震災は何を示したか-いま、政治の責任が問われている

地震は天災だが、被害は人災空白に等しい近畿での政府の震災対策
*阪神大震災の教訓をくみ尽くし、震災から住民守る政治を
 責任のがれと問題のすりかえは許されない

二、これでいいのか、京都の震災対策

多くの専門家が指摘する京都での直下型地震の可能性
財界本位の開発優先のもで、貧困な京都の震災対策

三、政治の力を尽くせば、麗災は最小限にくい止められる-「震災予防条例」をつくり、京都の震災対策の抜本的強化を

いのちと安全を大切にする政治へ、大もとからの転換を
住民参加と公開つらぬき、震災に強い京都に
①地震に強いまちづくりを優先してすすめる
②消防・医療・避難など、震災への即応体制を確立する
③活断層の調査など、地震観測と予知の体制を強化する


四、府民の皆さんに対話・討論を呼びかけます

1月17日未明に起こった阪神大震災は、5300人をこえる犠牲者をはじめ、100万人以上の被災者を出す戦後最悪の人的・物的被害をもたらしました。京都でも人命が失われ、京都市西京区樫原地区では450軒以上、大山崎町では200軒以上の家屋が損壊し、京都タワービルの窓ガラスが破損するなど、2000をこえる建物が損壊しました。日本共産党は、犠牲となった方々に心から哀悼の意を表するとともに、被災者の皆さんにお見舞いを申し上げます。


救援・復興へあらゆる支援を寒空のもと、20万人以上の人々が住まいを奪われたまま

 日本共産党は、地震発生当日に対策本部をつくり、救援募金や物資の輸送、ボランティアの派遣などの救援・復興活動に全党をあげて取り組むとともに、国会、地方議会でも緊急の支援を強く求めてきました。引き続き、物的支援やボランティアの派遣、被災者への住宅の提供などの救援・復興活動に力を尽くすものです。
 この寒空のもと、二十万人以上の人びとが住む家を奪われており、その忍耐も限界を越えています。住宅、医療、教育、雇用、中小業者の営業再建などただちにやらねばならない課題は山積みです。日本共産党中央委員会は十日、「阪神大震災の復興対策をどうすすめるべきか日本共産党の提案」を発表し、救援の規模とスピードをあげることは、国政の緊急かつ最大の任務であることを明らかにするとともに、国の責任を明確にし、住民の参加と合意をつらぬく被災者の生活再建を復興の土台に防災優先のまちづくりを柱にした本格的復興対策を提起しました。


ただちに救援措置の実施を

 日本共産党は、この提案の実現のために奮闘するとともに、京都の各自治体で、以下の点Xの実現・拡充をめざして全力をあげるものです。
○被災地の要望に見合う物的援助と機材の提供
○被災者への公営住宅の提供、とりわけ改良住宅の一般被災者への提供。関係団体とも連携した病人、高齢者、障害者、乳児などの福祉、医療施設での受入れ体制の具体化
○医療・福祉・衛生をはじめとして専門分野の人的派遣。ボランティア募挌・支援の体制と窓口の確立
○京都の被災者への公的援助とそのための制度の見直」。観光客の激減や輸送コストの大幅増、阪神地域との取り引きに関する損害など、大きな影響を受けている京都の中小企業への特別対策


一、阪神大震災は何を示したか
いま、政治の責任が問われている


地震は天災だが、被害は人災
-空白に等しい近畿での政府の震災対策

 「なぜ、こんな大災害に」
 これが、被災者や国民多数の痛切な気持ちではないでしょうか。地震予知連絡会は25年も前に、近畿を「地震の起こる可能性が高い地域」として指定しました。ところが政府の対策は、関東・東海地域に偏重し、この地域では一定の観測・予知体制をつくったものの、近畿での対策は空白に等しいものにされてきました。
 日本共産党は、「大地震の襲来の危険がそれだけはっきり分かっているのに、これにたいして今日の経済力や科学技術の力を活用して備えることをせず、江戸時代と同じような『天災だからやむをえない』といって手をこまねいており、その結果、たくさんの犠牲者がでるようなことがあったら、これはまさに今日の政治の、後世にたいする重大な責任問題です」(81年2月、不破哲三書記局長=当時=の講演)と指摘し、地震対策の抜本的強化を求めてきましたが、まさにいま、大震災への備えをおこたってきた政治の責任が厳しく問われています。


阪神大震災の教訓をくみ尽し、震災から住民守る政治を


 いま、多くの府民から、「京都は大丈夫か」「同じような地震が京都で起こったらどうなるのか」と不安の声が上がっています。この声にこたえ、安心して暮らせる日本と京都をつくるために政治は何をするべきなのでしょうか。
 地震そのものはくいとめることはできません。しかし、阪神大震災は、超過密都市を襲った初めての直下型地震として、様々な教訓を明らかにしました。この教訓をくみ尽くして、震災対策を抜本的に強化するならば、被害を最小限にくいとめることはできます。今こそ、震災から住民を守る政治へと転換すべき時です。


責任のがれと問題のすりかえは許されない

「予想を上回る地震」?-
知っていながら対策を打たなかった


 政府は、「道路や鉄道は、関東大震災クラスでも大丈夫」といってきた「安全神話」が崩れると、こんどは、「関東大震災の二倍の揺れだったから仕方がない」としています。しかし、当時の全貌は明らかになっておらず、この関の研究では、阪神大震災と同じ震度七の地域が広範囲にあったことが示されています。建設省の担当者も、「『大正関東地震にも耐えられる』という言葉を聞くが。これは無責任」(石橋克彦・建設省建築研究所応用地震学室長)と指摘しています。政府の言い分は、事実をゆがめる責任のがれに過ぎません。
 マスコミの中でも、「縦揺れは想定外で耐震基準に盛り込みようがなかった」という主張にたいし、「直下型地震では縦揺れと横揺れが相乗的に働く」のであり、「『今回の地震も...特別変わった揺れ方をしたわけではない』...という見方は地震工学者の間ではほぽ一致する」「(政府の主張は)襲付けを失う」(「日経」2月4日付)と批判がされています。だいたい、サンフランシスコやロサンゼルスでの直下型地震でも、高速道路の倒壊が起きましたが、政府は現地調査をしながら、〝日本は大丈夫〟として対策をうってきませんでした。
 「予想できなかった」のではなく、知っていながら対策をとらなかった。これが、まぎれもない事実です。


「もっと初動で対応できなかったのか」?-大地震に対応できる日常的体制こそ

 「もっと早く火が消せれば、助かった人も多いのではないか」-多くの国民が胸のつぶれるような思いを共にしました。地震の際の命綱となる耐震性貯水槽について国は整備目標さえ設けていません。昨年度は国の補助で作られた耐震性貯水槽(100)への補助金は、全国でわずか109基分。一方、首相でさえ必要性を説明できないような、1両10億円もする新型戦車20両分が組まれていますが、これは、耐震性貯水槽4520基分の補助金にあたり、72年から23年間につくられた耐鍵性貯水槽(4314基)すべての補助金を上回ります。
 初動の対応の遅れを、自衛隊の出動の遅れなど「危機管理」の問題に限定し、有事立法への道を開こうとする動きがありますが、とんでもないことです。震源地の洲本の測候所からの通報が、「行革」路線による人減らしで夜間無人化となっていたため、1時間14分も遅れました。災害対策の情報伝達などの体制をつくることは内閣本来の任務ですが、こうした消防・観測体制の不備をたださなければ、すみやかな初動対策ができるはずがありません。
 また、大災害が発生した時、消防力や警察力はもちろん、あらゆる手段をつくして救援活動にあたることは当然です。消防力などが不足している現状
では、自衛隊が救援活動にあたることも必要です。当然、その任務は災害救助に限定されます。同時に自衛隊は、消防や災害救助の専門的能力を持っているわけではありません。独自の防災訓練もおこなっておらず、災害対策用の専用装備はありません。大事なことは、消防隊の抜本的拡充やレスキュー(救助)隊の拡充、広域的な消防体制をとるなど、巨大災害に対応しうる消防・救助能力を飛躍的に強化することです。


「なぜ、地震対策がこんなに遅れた」?-背景に、軍拡・臨調路線、ゼネコン奉仕の大型開発路線


 世界で有数の地震国であり、大きな経済力・科学力を持っている日本で、なぜ、こんなに地震対策がないがしろにされてしまったのでしょうか。そこには、歴代政府によって続けられてきた、政治のゆがみがあります。
 80年代から始められた「行革」路線のもとで、軍事賛は突出して増やされましたが、震災対策や防災対策関係予算は低く抑えられてきました。消防関係補助金は削減の対象とされ、十四年前の水準も回復していません。来年度予算では、地震予知関連の予算はわずか百億円余りで、米軍への「思いやり」予算の25分の1にすぎません。さらに、巨大開発中心の公共投資が年間53兆円(94年度推計)も組まれ、その少なくない部分が大手ゼネコンのボロもうけや一部政治家へのヤミ献金に回されてきました。
 こうしたゆがみをただし、予算の浪費をやめさせるならば、震災対策を抜本的に強めることができます。

二、これでいいのか、京都の震災対策


多くの専門家が指摘する京都での直下型地震の可能性

 近畿は世界で最も活断層が密な地域として知られています。京都は、郷村断層、花折断層、西山断層、樫原断層、黄檗断層など活断層が密集し、伏見城が大破した慶長の伏見大地震(1596年)、京都で町家一平戸が倒壊した寛文地震(1662年)、二条城本丸が大破した文政の京都大地震(1830年)など古来から池震が多い地域です。68年前の1927年には、2925人もの死者を出した北丹後大地震が起きています。歴史的に見ると、ほぼ100年に一度、四国や紀伊半島沖の南海トラフを震源とする南海地震が起き、その前後に近畿で地震が相次いできました。「21世紀になると次の南海大地震が起きると予想され、今はそれに向かい(近畿の活断層が)活発ぐなっていく時期ご(尾池和夫・京大教授、「京都」1月18日付)「著名な活断層が密集する中部~近畿のあちこちで何回かの大地震が起こる可能性は高い」(石橋克彦氏=前出)との指摘も繰り返しおこなわれています。しかも京都市域は、マグニチュード7以上の地震は330年間も、マグニチュード6の地震でも165年間も起きていません。こうした「無震地域」には地震エネルギーが蓄積されており、「地震発生の準備段階」(見野和夫立命館大学教授、「京都民報」2月5日付)にあるといわれています。


このままでは、大惨事に

 こうした指摘どおり、京都で直下型の大地震がおこれば、いったいどうなるでしょうか。阪神大震災での死者の約半数は、60歳以上のお年寄りで、その多くが老朽木造住宅の倒壊による圧死でしたが、京都市は、戦前からの木造住宅が約12%と大変多く、高齢者世帯は十万六千世帯(18.8%)にものぽり、政令市の中で最高です。狭い道路や路地の多い京都市内では消防車さえ入れないケースが多発します。周辺を山に囲まれた京都市は、進入の経路は限られており、これらが寸断されたり、渋滞するならば、周辺部からの救援も極めて困難となります。また、神戸では、液状化は海岸付近に集中しましたが、京都では、これまでにも、伏見区や宇治市などで液状化災害が起きています。さらに、運転中の原子力発電所のすべての耐震設計基準が阪神大震災で測定されたデータ(833ガル)より下回っていますが、隣接する福井県には15基もの原発が集中しています。府内全域に、国民全体の財産である貴重な文化財もたくさんあります。このような条件を抱えた京都でこそ、震災対策の抜本的強化が求められています。


財界本位の開発優先のもとで、貧困な京都の震災対策

震災対策に着手したかつての京都民主府・市政

 直下型地震の重大性に注目した京都の民主府・市政は、震災対策に着手しました。蜷川民主府政は、71年から基礎調査・研究を始め、「無震地区」の舞鶴、木津地区に独自に地震計を設置しました。京都市では、富井民主市政時代の六七年から調査・研究を始め、京都市防災会議に地震対策委員会が作られました。七五年には。全戸に「防災ハンドブック」を配布して地震対策を呼びかけています。
 ところが、自民党府・市政のもとで、専門家や消防関係者などの努力にもかかわらず、震災対策は後退させられ、住民の暮らしや安全を守る施策より大企業本位の大型開発が優先されてきました。民主府・市政時代から今日まで、京都の震災対策の一線に立ってきた専門家からも、「(府・市政の転換以降)この間の経緯を見ると、中央の意向に従うということと、地震対策に金を出すより、開発にたいして金を出す方針になったとうけとれます」(小澤泉夫・京都府・市防災会議専門委員、京大名誉教授、「京都民報」二月十九日付)との声が上がるほどです。


被害想定に見合わない震災対策

 86年に府がまとめた「府地域防災計画震災対策計画編」では、「由良川沖」(北部)「近江」(京都市域)「宇治」(南部)の三地域で直下型地震を想定し、その震度は7としています。また、85年に市がまとめた「京都市地域防災計画震災対策編」では、「市域」「市周辺域」の二つの地震を想定し、その震度は6としています。
 いずれの被害予測も阪神大震災を上回るものです。ところが、専門家からの改善を求める声にもかかわらず、実際の対策はなおざりで、マスコミからも「被害想定と現実的な対応には大きな開きがある」(「日経」1月25日付)と指摘されています。
 さらに、府下44の市町村のうち、15の自治体では、防災計画の中に震災対策が入っていません。


国の最低基準さえ満たさない消防体制


 阪神大震災では、消火栓は断水で使えないうえ、防火水槽も足りず、広がる火災に打つ手がありませんでした。
 京都市では百トン級の小型ポンプ付き耐震性貯水槽を75年度から、年間5~8基づつ、学校、公園などに設置していますが、これまでに国の補助を受けて設置されたのは122基で、当面の目標も小学校の数にも満たない152基にすぎません。東京都の区部では、250メートル四方に1カ所の耐震性貯水槽をめざして計画的に設置がすすめられていますが、京都の市街地で東京なみに設置するとすれば、約2400ヵ所が必要です。京都市の消防車両は59台で、国が「最小限度」として定めた「消防力の基準」(京都市は91台)の65%に過ぎません。消防職員も国基準の80%にとどまっています。そのうえ、はしご車を使っても消火活動かできない十二階建て以上の高層住宅・建築物か増えています。
 府内の市町村の消防本部体制を見ても、国の基準にたいする充足率は、普通ポンプ車で64.3%、消防職員で75.4%にとどまっています。宮津市や精華町には、高層建築が増えているにもかかわらず、はしご車がありません。
 防火や避難誘導などに大きな役割を果たす地域消防団も、団員の献身的活動に依存したものであり、少なくない地域で後継者難に直面しています。


不備めだつ医療や備蓄、広報体制


 阪神大震災では、多くの病院自体が損壊し、医薬品も不足したうえ、情報・交通網か寸断されるなかで救急搬送もできず、治療を受けられないまま亡くなった被災者も少なくありません。
 京都でも、医薬品の備蓄は、府立や京都市立の病院と保健所などにあるだけで、きわめて不十分です。災害時には、公的機関以外に開業医らが大きな役割を果たします。多くの府県や大都市は、その活動の根拠となる「災害時の医療救護活動に関する協定」を医師会との間に結んでいますが、京都市は結んでいません。
 京都市では、寝たきりや独居の高齢者、心身障害者など「避難困難者」は、2万5000人といわれますが、「震災時の対策は全く抜け落ちていた」(市総務局。「京都」一月二十一日付)のが実情です。今回の地震でも、電話不通になったため、お年寄り向けのペンダント式緊急通報システムは作動しませんでした。
 また、阪神大震災では、少なくない避難所が孤立し、食料や水などの物資が届きませんでした。横浜市では、食料の他に独自に水の缶詰を製造し五56万缶を保存していますが、京都府は91年以降、食料備蓄をとりやめており、44市町村のうち、非常食を備蓄していない自治体は35もあります。京都市の備蓄は消防局本部や物品センターなど4ヵ所と区役所にあるだけで、避難所毎の備蓄はされておらずテントや生活必需品の備蓄は皆無に等しいものです。中央防災会議が決めた大都市震災対策推進要綱のなかでは、被災者の救護のためにの学校給食施設の活用が明記されていますが、京都での中学校給食はほとんど実施されていません。
 災害時の情報網についても、川崎市では、行政機関だけでなく各町内会や避難場所などに約2000台の無線を設置していますが、京都市は区役所、保健所、消防署などに222台の防災行政無線があるのみです。府の防災無線も、府の出先機開と市町村を結んでいるだけです。市町村から各集落への通信体制は市町村まかせにされており、44市町村のうち、住民に直ちに連絡できる「同報無線」が導入されているのは8自治体だけです。住民全体を
対象とした啓発活動はほとんどされていません。


なおざりにされてきた地震につよいまちづくり


 国が定めた耐震基準は震度5を想定したもので、震度7の大地震に見合うものではありませんでした。神戸でも、震度五を想定したまちづくりしかおこなわれてきませんでした。そのため、高速道路や鉄道、大型ビルが倒壊し、水道やガスなどのライフラインも寸断されてしまいました。地下鉄は、「地雲とともに揺れる地下構造物に被害は出ない」として、耐震基準すらありませんでしたが、神戸では、駅の天井が落ちるなど、開削工法の区間に集中しで被害がおきました。
 京都ではどうでしょうか。京都市の浄水場や下水処理場、水道管、京都を通過する新幹線も震度五を想定して設計されたもの。京都市の地下鉄も、倒壊した神戸の地下鉄と同様の工法で進められています。また、京都市内の主要な僑の十三ヵ所が『危険度の高い』ものとされていますが、ニカ所で架け替え工事がおこなわれている以外は、そのままです。そのうえ、地震対策もとられないまま、高速道路や京都駅ビル高層化など、大企業本位の大型開発が次つぎ進められており、関西学研都市も「立地企業、研究所にまかせており、総合的な防災対策はとっていない」(森岡秀悟・府文化学術研究都市対策室長、「日経」1月26日付)状況です。これでは、大震災が起これば、都市機能はマヒしてしまいます。都市公園や学校の運動場などのオープンスペースは、延焼をくい止め、災害時の避難場所になりますが、京都市民の一人当たりの公園面積は、政令市の中で最低で、神戸の五分の一にすぎません。しかも、市内中心部で統廃合された小学校は、避難場所からはずされたままです。そのうえ京都御苑内への迎賓館の建設で、2ヘクタールもの避難場所が失われようとしています。


皆無に等しい観測・予知体制

 国による観測・予知体制が極めて貧困なもと、現在、京都地方気象台が設置している地震計は、京都市と舞鶴に加え、この三月に設置される和知、弥栄とあわせて四力所にすぎません。滋賀県には、体に感じない揺れも記録する高性能地震計が琵琶湖周辺の六ヵ所に配置されてますが、京都にはありません。京都大学防災研究所の観測体制も、国の予算が貧困なもとで、不十分なものにとどまっています。
 府や京都市をはじめ、自治体独自の観測・予知体制は皆無に等しい状態で、活断層の現状の調査もほとんどされていません。液状化対策についても、「府も京都市も地震が来ないと思っていたのか、液状化対策は全くしていない。深いところの地盤がどうなっているかも、よくわかっていません」(柴田徹京大教授、「京都」2月3日付)という状況です。京都市の地震対策調査研究費はわずか206万円(94年度予算)で、専門18十八日付)との声が上がっています。

 このように、国の震災対策が不十分なうえ、近畿での対策は後回しにされてきました。さらに京都の地方政治でも、「行革」路線推進・大型開発優先の自民党政治がすすめられ、震災対策はないがしろにされてきました。これでは、住民のいのちと安全は保障されず、住民の不安は大きくなるばかりです。


府内市町村の消防本部体制の現況(カッコ内は国基準)
市町村 区分 普通ポンプ自動車 はしご付ポンプ自動車 化学消防車 救急自動車 消防職員
京都市 59(91) 22(23) 6(6) 29(29) 1,830(2、375)
福知山市 6(6)1(2)1(2)5(5)99(119)
舞鶴市 9(10) 1(2)1(2)5(5) 107(177)
綾部市 2(3) 0(0) 1(1) 4(2) 47(55)
宇治市 11(11) 2(3) 2(2) 6( 5) 175(270)
城陽市 3(11) 1(1) 1(1) 3(3) 64(99)
向日市 1(5) 2(1) 2(2) 2(2) 59(73)
長岡京市 3(10) 1(1) 1(1) 3(3) 82(101)
八幡市 2(6) 1(1〉 2(1) 2(2) 62(100)
大山崎町 2(2) 1(1) 1(1) 2(2) 33(57)
久御山町 1(2) 1(1) 1(1) 2(2) 36(60)
田辺町 4(9) l(1) 1(1) 2(2) 96(114)
精華町 3(3) 0(0) 0(0) 2(2) 40(67)
相楽中部消防組合 7(8) 1(1) 1(1) 7(6) 116(186)
宮津与謝広域消防組合 4(4) 0(1) 1(1) 4(4) 74(97)
京都中部広域組合 9(12) 1(1) 1(1) 7(7) 168(168)
丹後広域消防組合 3(3)0(0) 1(1) 4(4) 88(93)
合計 126(196) 36(40) 24(25) 89(84) 3,176(4,211)
充足率 64.3% 90.0% 96.0% 105.9% 75.4%
(京都民報12月12日付より)


京都における大地震の歴史澀牋昌茫乳

M 主な被害状況
701年 7・0 舞鶴沖の冠島、山頂を残し海中に没
827年 6・7 倒壊球歴多数
856年 6・4 家屋・仏塔倒壊、余震多数
881年 6・4 御所の石垣崩れる
890年 6・2 家屋が傾く
976年 6・7 山城など圧死50人
1041年 6・4 法成寺の鐘楼倒る
1070年 6・4 山城など被害
1093年 6・4 所々の塔破損
1977年
1185年 7・4 白河あたり被害大
1245年 6・2 被害多数
1317年 6・7 白川あたりの人家ことごとく潰れる
1350年 8・2 祇園社の石塔の九輪が落ち砕ける
1361年 8・4 山城など倒壊多く余震多数
1425年 築垣多く崩れる
1449年 8・4 淀大橋三間、桂大橋二間が落下
1596年 7・0 慶長の伏見大地震。伏見城が大破し、東寺、天竜寺なども倒壊。約600人圧死
1662年 7・6 寛文地震。京都で町家1,000戸倒壊し、死者200人。祇園石鳥居が倒れ、五条石橋が落ちる
1665年 6・1 二条城石垣12~13間崩れ二の丸殿舎破損
1694年 6・1 宮津で地割れ、泥を噴出。家屋倒壊
1751年 6・4 築地・町家が破損。余震多数
1830年 6・4 文政の京都大地震、二条城本丸が大破、御所破損、洛中の土蔵すべて破損。死者280人
1927年 7・5 北丹後地震。家屋倒壊・焼失か多数。死者2,925人

三、政治心力を尽くせば、震災は最小限にくい止められる

「震災予防条例」をつくり京都の震災対策の抜本的強化を

 日本共産党は81年、不破書記局長(当時)が国会質問で、地震に強い国土づくり、都市づくり、消防能力など地震発生時の即応体制、観測と予知体制の抜本的強化を柱とする対策を先駆的に要求してきました。
 京都府議会でも、84年の本会議で、直下型地震への対策を要求し、府の防災計画を改善させました。83年には、全国7府県で未設置であった防災行政無線の設置を要求、90年に設置させ、その後は市町村と住民の情報システムを要求し続けてきました。京都市議会では、79年の本会議で、震災時の火災対策や防災都市づくりを求めました。
その後も、いっかんして地震対策の強化を主張し、「大地震などの災害に備え、防災訓練の強化、地域的にアンバランスのある広域避難場所の計画的確保、耐震貯水槽増設、小型ポンプ増強、避難路の確保などの安全対策の強化」(95度年予算要求書)などを求めてきました。
 こうした取り組みを踏まえ、震災に強い京都をつくるために以下の点を提起し、その実現のために力を尽くすものです。

(1)いのちと安全を大切にする政治へ、大もとからの転換を

 阪神大震災で明らかになったように、直下型の地震では、活断層上でとりわけ大きな被害が生じ、これまでの耐震基準では安全は守れません。交通もライフラインも寸断されることを想定したきめ細かな消防、備蓄、医療体制の必要性も浮き彫りになりました。住民の自主的防災活動やボランティアの役割の大きさも注目されています。
 今日の科学は、地震の日時や場所を正確に予知するところまでは到達していません。しかし、今度の震災からあらゆる教訓を引き出して震災対策を強化するならば、被害を最小限にくい止めることは可能です。将来の世代のためにいっそうの観測・研究をすすめることも必要です。これらには大きなおカネを必要としますが、世界で有数の経済力と技術力を持つ日本でやれないわけがありません。
 来年度国家予算についても、補正予算ではなく、軍事費などの浪費を削った抜本的組み替えを行い、阪神大震災の救援、復興や地震対策の強化にあてるべきです。また、政党助成のための309億円を被災地の中小企業向けの融資の利子補給にあてれば、1兆円の無利子融資が可能です。日本共産党は、政党助成の廃止を要求しますが、各党は少なくとも「返上」の態度を明らかにすべきです。
 地震国日本で、国民を震災から守ることこそ、国民の安全保障の最大の任務です。安保・軍事優先、ゼネコン・大企業奉仕の政治を、国民のいのちと安金を第一にする政治へときりかえ、安心して暮らせる日本と京都をきずきましょう。


(2)住民参加と公開つらぬき、震災に強い京都に


 もともと地方自治体の仕事は、「住民の安全、健康及び福祉を保持する」(地方自治法第二条)ことであり、災害から住民を守ることは自治体の第一の貴務です。この立場から、東京では、革新都政時代の七一年、「震災予防条例」をつくり、国の対策の充実をまつことなく、独白の震災対策に全力をあげました。


財界本位の大型開発優先やめ、震災対策を地方政治の柱に


 京都でも、国にたいして、震災対策の強化を強く求めつつ、いまこそ、自治体本来の精神を発揮し、独自の震災対策に全力をあげる時です。「市民が望まない開発や事業に巨費を投入するのではなく、防災対策や市民に切実な事業、施設にお金を使うべきです」(堀内三郎・京都市防災会議地震対策委員長、京大名誉教授、「京都民報」2月19日付)との専門家や住民の声に耳をかたむけ、震災対策を地方政治の中心課題の一つに位置づけるべきです。
 府や京都市の来年度予算では、震災対策予算は増額されたものの、きわめて不十分なものにとどまっています。震災対策の位置づけにふさわしい予算へ抜本的な組み替えを求めます。
 防災計画に震災対策がない自治体はただちに作成することはもちろん、府や京都市も、防災計画を「震度7」の直下型地震にも対応できるもの、都市機能がマヒした状態を想定したものに抜本的に強化し、まちづくり災害即応体制観測・予知体制の三つの点を根本的に転換すべきです。そのために、関係者・機関との協議による研究体制の確立や行政部門の新設を含め、特別の体制をとることが必要です。以上を強力にすすめるために、「震災予防条例」を制定します。

①地震に強いまちづくりを優先してすすめる

 建築基準法施行令や建設省通達などで定めている耐震基準がきわめて不十分であることが明らかになりました。国に対し、「震度7」を想定した耐震基準への抜本的見直し、既存の大型建設、構造物の全国的総点検と必要な補強工事の実施を求めます。
 自治体として以下の点をすすめます。

・住民参加による公共施設の緊急点検と耐震化
学校、病院、老人ホーム、保育所、浄水場、橋、港湾などなどの公共施設を住民参加のもとに緊急点検し、結果と対策を公表します。JR、私鉄、高速道路や民間の大型施設の総点検と補強を求めます。

・安全な地下鉄を
 震度7にも耐えられる安全な地下鉄をめざし、早期に総点検し、補強します。現在工事中のものは総点検し、開通までに震度七に耐えられる構造に補強します。

・住民参加の防災まちづくり「災害に強いまちづくり指針」をつくり、住民参加で地震に強いまちづくりを進めます。人口密集地での防災拠点、避難広場、公園・緑地を計画的に建設し、避難通路を確保します。その際、京都市内では小学校跡地を積極的に活用します。

・大型プロジェクトの凍結・見直し
 高速道路、京都駅ビル、学研都市開発などの大型プロジェクトは凍結・見直しをします。その際の専門家、住民の参加を保障します。

・原発耐震基準の見直しと総点検
 阪神大震災の教訓を組み入れた耐震基準にもとづく既存原発の総点検を実施し、その結果、耐震性が及ばない原発の運転を中止するよう求めます。久美浜町への原発建設計画の中止を求めます。

・防災アセスメントの実施
 すべての開発計画、都市計画の前提として、防災の見地をつらぬき、防災アセスメントを実施します。天ケ瀬ダムをはじめとしたダム、急傾斜地、ため池、堤防などの点検と地滑り対策、安全対策や津波対策を強化します。

・住宅、文化財の震災対策への援助
 木造住宅をはじめ個人住宅、マンションの点検と防災計画、耐震補強工事への公的援助をおこないます。文化財の独自の防災対策を強化します。

②消防・医療・避難など、震災への即応体制を確立する

 国にたいし、消防関係予算の大幅増額による消防力の飛躍的強化、レスキュー(救援)隊の拡充、広域的な救援体制の確立など震災時の即応体制の確立を求めます。消防関係の補助率を近畿でも関東・東海なみに引き上げるよ
う求めます。
 自治体として以下の点をすすめます。

・消防力の抜本的拡充
 市街地の耐震貯水槽を当面、東京区部並みに設置します。消防車の増車、消防職長の増員など人、装備両面で増強します。機動的に行動できる「京都府広域消防隊」を設置し、防災ヘリを配置します。他府県、都市との連携で広域的消火体制を確立します。緊急輸送ルートの見直しなど、災害時の交通計画を確立します。

・ライフラインの安全対策の抜本的強化
 電力・水道・ガス・通信などライフラインの耐震性地下共同溝化をすすめます。

・緊急医療体制の確立
 薬品の備蓄や基幹病院への無線の配置、緊急搬送システム、広域的な医療機関との連携など、緊急医療体制を確立します。医師会と京都市の間で、ただちに「災害時の医療救護活動に関する協定」を結びます。

・きめこまかい避難対策
 避難所を実態にあわせたきめ細かなものに改めるとともに、そこへ行く通路を確保し、防火水槽の場所とあわせて住民に周知徹底します。高齢者、障害者など災害時の避難困難者の把握と救助'救済システムを確立します。倒壊家屋からの救助や道路・路地の通行を保障する重機類を確保します。災害時の避難所確保へ旅館・ホテルとの協力体制を確立
します。

・備蓄の増強と分散化
 食料、衣類・寝具の給付、仮設トイレ・簡易トイレの設置を迅速におこなえるよう、備蓄の種類と量を抜本的に見直し、避難所となる施設などへ分散備蓄します。広域避難場所のトイレはくみ取り式でも対応できるものに換えます。学校給食施設を充実します。給水タンク車を増強します。

・防災無線の拡充
 防災無線を避難所まで配置します。災害時の行政・生活情報をすみやかに伝えられるよう、ラジオ・テレビ局との連携を強化します。電話不通時も作用する緊急通報システ
ムを確立します。

・住民の自主的防災活動への援助
 地域消防団など自主的防災活動の強化へきめこまかい援助をおこなうとともに、小型ポンプを配置します。市民意識の高揚へ防災知識の普及をすすめます。実効ある避難訓練を実施します。自治体職員への防災研修を強め、災害時の職員の任務分担を見直します。


③活断層の調査など、地震観測と予知の体制を強化する

 関東・東海地域は、「観測強化地域」に指定され、首都圏直下型地震の予知のために、体積ひずみ計、GPS(人工衛星を利用した測位システム)、海底地震計、観測井戸などの観測・予知網がひかれています。国にたいし、現在、特定観測地域である近畿地方も観測強化地域に指定し、関東・東海地方なみの観測・予無体制を確立するよう求めます。大地の動きを監視する全国的な精密測地網は、20キロの網の目でなく、最初の目標どおり8キロの網の目でおこなうべきです。測候所の廃止、夜間無人化はただちに中止するよう求めます。自治体として以下の点をすすめます。

・活断層の調査と災害予測地図の公開
 「活断層の巣」といわれる京都で、活断層の過去の経歴や今後の危険度をつかみ、それに沿った防災対策をすすめることは、とりわけ重要です。活断層の状況の詳細な調査などをおこないます。ボーリングによる地盤調査をはじめ、宇治川周辺などの液状化災害対策をすすめます。国分寺市でおこなわれている「ハザードマップ」(災害予測地図)の作成と公開をすすめます。

・独自の観測・予知体制を
 府独自の地震観測装置を設置します。独自の観測・予知体制の強化へ、研究体制のあり方など、学者・研究者との論議をすすめます。

四、府民の皆さんに対話・討論を呼びかけます

 阪神大震災について、今後も、さまざまな角度から研究を深め、いっそう多くの教訓を導き出し、ただちに、震災対策の拡充に生かすために英知と努力を尽くさなくてはなりません。日本共産党は、あらゆる学者・研究者、医療、自主防災、ボランティア、行政の関係者をはじめ、府民の皆さんと対話・討論を重ねてこの提言案を充実させ、震災に強い京都をつくるために全力をあげる決意です。
 同時に、今度の震災では、人のいのちをないがしろにする、政治のゆがみが改めて明らかになりました。人のいのちを大切にする政治、社会へ、新しい世直し運動をともにすすめましょう。
 重ねて、府民の皆さんに対話・討論を呼びかけるものです。