府民の意見を反映した新府立図書館の建設を(見解)
96年7月12日
はじめに
築80年をこえ老朽化し、狭まくなった現府立図書館に替えて、新府立図書館の建設を求める府民の声は年々大きくなっていたが、昨年1月の阪神淡路大地震で被害を受けて以後、その声は急速に高まった。わが党議員団は、府民の声を踏まえて新府立図書館の建設をせまったが、府教育委員会は「集蔵機能のある現施設で引き続き運営する」(95年6月および9月議会本会議での安原教育長答弁)と頑迷な態度を崩そうとしなかった。しかし、その後の府民の運動と日本共産党府会議員団の引き続く追求の中で、ついに新府立図書館の建築が実現することになった。
新府立図書館の建設については、現在の岡崎での改築を基本に、1996度基本計画、97年度埋蔵文化財等の調査、98~99年度建設、2,000年開館という大まかな見通しが府教委によって発表されている。
新府立図書館建設にあたって、いくつかの府民団体や関係者から熱い思いを込めた要望や提言が出され、わが党議員団にも要請が届いた。
その主な内容は、①現府立図書館の建物を文化遺産として保存活用すること。②新府立図書館建設にあたって「基本構想策定委員会」をつくり、計画段階から、広く府下全域の府民の声を反映させること。③府下市町村図書館の振興策を策定すること。④豊富な蔵書と図書サービスのために 2万㎡以上の床面積を確保すること。⑤市町村図書館支援だけでなく、直接サービスも行うこと。とりわけ児童サービスを切り捨てないこと。⑥老朽化した現在の建物の代替え施設を早急に確保すること。などである。
日本共産党府会議員団は、。新府立図書館が、これらの府民や関係者の要望に応え、府民にとって使いやすく、「生涯学習を支える施設」(社会教育委員会議の提言)となるよう府議会本会議および文教委員会で奮闘してきたが、ここにあらためて見解を発表するものである。
府民参加での「基本構想」の策定について
ここ数年来、全国的に生涯学習の拠点として府県立図書館の新館建設がすすんでいる。本年5月に開館した大阪府立図書館が、のべ床面積約3万㎡であるのをはじめ、その他の県立図書館ものべ床面積1万~2万㎡を確保している。これらの府県では、いずれも「基本構想策定委員会」をつくり、府県立図書館の果たす役割と機能について検討した上で、必要な床面積を確保しているのは当然のことである。
ところが、本府においては、府民団体の要望にも関わらず、基本構想が明らかにされないまま、基本計画作成の作業がすすめられている。
わが党議員の質問に、安原教育長は「社会教育委員会議の提言(95年12月)が基本構想であり、これに基づいて部内で基本計画を現在検討中である」(本年6月議会文教委員会)と答えた。ところが、社会教育委員会議の提言の7ページを開くと、「基本構想の策定に当たっては」と前置きして、基本的な役割と機能を5点提言しており、提言をふまえて「基本構想」が策定されなければならないはずである。教育長の答弁は、「基本草想」を策定しないまま作業をすすめていることを暴露したものであり、社会教育委員会議の提言をないがしろにするものである。
また、教育長は府民の声を反映すべきだというわが党議員の質問に、「社会教育委員会議の提言が府民の意見を代表するもの」だ(本年2月議会文教委員会)と答えたが、社会教育委員会議の提言をもって、府民の声を無視する口実にはならないし、その提言さえ上述のように無視しているのである。
床面積や直接サービスのあり方、児童室の設置等々府民の要望や関心は高い。府議会においても「視覚障害者サービスの充実」や「日曜閉館は時代遅れ」など、他会派議員からも要望や意見が出されてきたが、これらの図書館機能についての検討はどこで行われているのかまったく闇の中である。どのような建物をつくろうとしているのか府民に何も示さないまま、「今年度中に基本計画をつくる」などというのは、府政の主人公である府民を愚弄するものであり、到底許されるものではない。
要望書を提出している府民団体には、府立図書館の利用者や児童文庫などで経験を蓄積してきた人々、全国的にも著名な京都在住の図書館学の研究者や日本図書館協会の理事も名を連ねている。手弁当で府立図書館の有るべき姿について話し合い提出されているこれらの人々の提言や意見をなぜ無視するのだろうか。
また、教育長は「教育委員会の経験と専門性を活かし民間コンサルタントの知恵を借りてすすめていく」(2月文教委員会)と答えている。過日、府職員労働組合が図書館分会を中心に、新府立図書館についての提言をまとめており、住民と接する職員ならではの専門性を活かした提言になっているが、この提言にも耳を傾けているとは思えない。
これら府民や職員の熱意と専門性を汲みとり、府民的討議のもとに「基本構想」を策定し、新図書館の建設に着手すべきである。
現在地での建て替えについて
岡崎の現府立図書館の敷地面積は3,740㎡(京都市からの借地)で、都市計画法による各種の規制を受け、容積率は最高でも200%(約7,500㎡)である。滋賀県立図書館では、最近105万冊の蔵書スペースを確保するために地下に約4,000㎡の書庫を増設しているが、本府の場合、府立資料館の蔵書と合わせて100万冊の蔵書でスタートと発表しており、開館後の購入資料の増加を考えれば、これだけでも床面積の不足は明らかである。「岡崎での改築」を前提にするのではなく、近く一部移転予定の府立大学の農場跡地(地下鉄北山駅下車すぐ)はじめ、交通の便や自然環境を配慮した適地を、府立図書館の果たすべき機能について十分検討の上、決定されるべきである。
この点について、安原教育長は2月の文教委員会でのわが党議員の質問に「知事が最終
的に決断したことであり、変更はないと思う」と答えたが、図書館設置は教育委員会の仕事であり、府立資料館との調整があるにしても、図書館を建設するのであるから、教育委員会が責任をもって提案し、知事の協力を求めるべきものである。教育長の姿勢は根本的に誤りである。
市町村図書館振興策について
現在府下市町村の図書館設蜀犬況は、市では100%、町村では33のうち9町に図書館かおるものの、24町村が未設置のままである。府立図書館の機能は、各市町村図書館が整備充実されてはじめて、府民すべてに活用されることが可能になる。
滋賀県教育委員会では、市町村図書館振興計画を策定し、施設建設に当たって県の補助金を上乗せし、図書購入費についても補助制炭をつくり、市町村の図書館繼設を支援、誘導している。また大分県をけじめ様々な支援策が振興計画に基づいて具体化されている。新府立図書館の建設と同時に、このような積極的な施策が本府にも求められている。府教育委員会は、コンピューターネットで市町村図書館を結ぶと言っているが、コンピューターネットの推進についても補助金の上乗せなど支援策が必要である。
わが党議員の質問に対して、安原教育長は知事部局が作成した「京都府生涯学習基本構想」で図書館振興策も示されていると答弁したが、どこを読んでも今求められている図書館振興策などない。そもそも、図書館の振興は教育委員会の仕事であり、知事部局に任せる内容ではない。この点でも安原教育長の見識が間われるものであり、無責任な教育委員会の態度を抜本的にあらため、府立図書館の建設と不可分のものとして、市町村図書館振興策を策定するべきである。
代替え施設の確保について
築87年の現図書館は、昨年の阪神淡路大地震の際に壁に亀裂が入り、約2ヶ月間休館した。この間専門家の建物調査の結果、老朽化のために3分の1が使用禁止区域になり、閲覧室を大幅に縮小して事務スペースに当てられたのをはじめ、児童や障害者へのサービスも縮小されて開館された。ところが、9月には再び天井がバケツ2杯分のコンクリート片とともに落下し、再休館するという事態をまねいた。この老朽化し、危険な建物のままで図書館サービスを継続することは、利用者にとっても、働く職員にとっても危険きわまりないことである。早くても4年後という新館オープンまで現在の状態を放置することは許されない。ただちに代替え施設を確保するべきである。
現在の建物の保存について
現在の府立図書館建物については、日本建築学会など建築関係者からも、明治期の貴重な建物であるという評価を受けている。
明治42年に建てられた現在の府立図書館は、現存する図書館建物としては国の重要文化財に指定されている大阪府立中之島図書館(明治36年竣工)に次いで古い歴史をもつ建物である。明治期に欧米諸国に留学した青年技師によって、日本に近代建築がもたらされたが、当時の京都府知事大森鐘一札京都出身の建築家松室重光(当時28才)に現在京都府の指定文化財になっている府庁旧館(明治37年竣工)を設計させ、続いて京都高等工芸学校(現工繊大)教授の武田五一(当時33才)に現府立図書館を設計させた(明治39年に起工)ものである。
また。この建物を使って「白樺派美術展」(明治45年)が開かれ、有島武郎や志賀直哉、武者小路實篤などが訪れ、竹久夢二の作品展も2度(大正元年と5年)開かれている。古くは森鴎外も立ち寄るなど、明治大正期の文化のかおりのただよう施設である。
6月の文教委員会でのわが党議員の質問に、教育委員会は「現在文化財として指定されていない」と答えるだけで、府民の声に耳を傾ける姿勢を示さなかったが、これらの歴史を考えるならば、貴重な文化遺産として保存を望む関係者の声は当然であり、文化財保護審議会委員はじめしかるべき専門家や府民の意見を聞いて判断するべきである。
以上基本的な事項についてわが党議員団の見解を述べたが、府民の意見を反映した府立図書館の建設と市町村図書館の充実で府下すみずみまで図書館サービスが行きわたることを願い、引き続き奮闘するものである。