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政策と見解

京都府の「同和事業見なおし検討結果」に対する見解

1997/03/24 更新
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1997年3月22日


日本共産党京都府会議員団


 京都府は、「地対財特法」の期限切れを本年3月末に控え、同和事業の見なおし・検討結果を明らかにした。その結果は、これまでの同和事業144事業のうち約30事業を廃止、一般行政への移行するもの約70事業、引き続き継続するもの40事業とし、97年度予算案では同和対策予算として49億2 6 0 0万円を計上している。ただしこの予算額は同和加配教員分約22億円をはずし、大幅に削減されたかのように見せ掛けているが、これを含めれば、継続事業だけで引き続き70億円をこえるという大きな予算となっている。
 全国的には兵庫県・八鹿高校事件や北九州市での土地転がし・脱税問題が国民の厳しい批判のまととなり、70年代後半から同和事業の見直しがすすめられ、さらに、地対財特法期限切れを前に、「格差は解消した」と同和地区内外の住民とともに「同和事業終結宣言」を行なう自治体がふえてきた。ところが京都府は、こうした流れに逆行し、自民党府政になって以後、新たに40余の事業を拡大し、年間136億円(96年度)にものぼる同和事業を実施、さらに、同和事業の継続・永久化を目的とした「部落解放基本法制定要求実行委員会」に加わり「解同」の策動に加担してきた。
 こうした京都府の姿勢に対し、府民の厳しい批判と「同和行政の終結を」求める運動が大きく広がり、荒巻知事も「見なおし・検討」を約束せざるをえなくなり、その結果がようやく明らかにされたものである。
 このように、今回の一定の「見直し」は、「解同」がねらったr同和事業の継続・永久化」の策動を許さない、全国的な流れ、府民の世論と運動におされておこなったものである。
 しかし「見なおし検討結果」と97年度予算審議であきらかになったことは、これまでの京都府の「解同いいなり」の根本姿勢の転換は行なわれておらず、きわめて不十分なものであり、今後に大きな問題を残すものであることが浮き彫りになった。

1、「廃止」「一般対策への移行」が当然な事業を「継続」し、「逆格差」のいっそうの拡大で、部落問題解決の障害を残す
 今回、約40の事業が同和対策事業として、「5年間の期限をきって継続する」としているが、この中には重大な問題を多く含んでいる。
 その第一は、まったく「見なおし」がされなかった教育対策の問題である。
 高校・大学就学奨励事業、いわゆる奨学金制度が、給付制のまま継続される。京都の場合、全国的に貸与制に改められたあとも、給付制を維持し、しかも所得制限もなしに継続してきたが、今回もこれをなんら見直していない。同和推進特別委員会での理事者の答弁は、「20年間の返済を求めることは、その奨学金を受けた人が同和地区出身であることをいつまでも引きずり、夫婦間に問題を生み出すことになりかねない。こうしたことにならないよう給付制にしている」と答弁している。しかし、これはまったくの誤魔化しの答弁にすぎない。同和地区内外の格差がなくなり、同和行政そのものがなくなり、国民の意識が大きく変わる中で、「同和奨学金」を受けていたことが「家庭崩壊」を起こしかねない、などという言い分が社会的に通用・しないことはだれの目にも明らかである。「解同」の要求に屈して行なってきた給付制はただちに止め、一般奨学制度に移行すべきである。小中学校の補習学級、高校での補充授業などが継続事業となっている。あわせて教員の同和加配も残すとなっている。しかし、今日、同和地区内外のこどもたちの学力格差は基本的になくなっており、同和地区の児童だけを対象にした補習学級や補充授業も必要ない。逆に、この補習学級が同和地区と地区外のこどもたちを分離し、新たな問題を発生させていることは保護者からも指摘されているところである。今回の見直しに際し、やるべきことは同和地区内外を問わず、すべてのこどもたちにゆきとどいた教育を行ない、落ちこぼれなどを生まないよう教育条件を整備することである。
 第二は、同和の名による各種職員設置事業の問題である。
 同和の名による職員配置は、教職員とともに、保母、職業相談員、同和教育指導員、さらには経営指導員、営農相談員などが、「計画的に削減する」としながら、今年度は現状のまま継続となっている。
 しかし、商工会議所、商工会連合会に配置されているはずの同和担当経営指導員(14名)は、そこに出勤せず、部落解放センターで「解同」の専従として活動をしているもので、実態は同和事業の名において、特定運動団体のもとに組み入れられ、その活動を行なう事態となっている。
 さらに、同和加配保母、同和教育指導員、職業相談員などは、それ自体が、同和地区の子供たちや求職者をその旧身分によって分離し、固定化をはかるものであり、一般対策に移行し、すべての府民に必要な対策を行なうことで解決すべきものである。
 第三は、実態調査結果でも「生活環境における格差はなくなった」としながら、一部継続事業とされたハード事業の問題である。
 とりわけ、下水道整備事業については、実態調査でも同和地区の整備率は40.1 %であり、同和地区のある35市町の平均31.8%、府平均34.0%に比べても、すでに「逆転」しているにかかわらず、これを継続するとしている。
 公共下水道事業や農村梟落排水事業が実施されたところで、同和地区世帯に対して水洗便所改造工事費として1/2の補助を行なっているが、市町によってはこれとあわせて、公共下水道や農村集落排水事業での受益者負担分を市町が肩代わりする制度、さらには水洗便所改造の補助の上積みもおこなっている。他方、一般家庭では、受益者負担分70~80万円と自宅の水洗化の費用など、多額の負担が押しつけられている。その結果、同和地区との逆格差が大きな問題となっており、これを継続することは、同和問題の解決には役立たず、新たな障害をつくりだすものである。いま必要なことは、一般対策も充実し、住民の負担を全体として軽減し下水道整備を促進することである。
 その他のハード事業についても、格差が解消し、逆格差が広がっているもとで、継続するのではなく一般対策への移行こそが求められている。
 第四に、就労対策の問題で、同和対策技能習得援護事業や職業訓練生援護事業、自動車運転科等委託訓練事業がそのまま継続となっている。
 技能取得援護事業は、看護学校や専門学校などで学ぶ学生を対象に入校支度金(96年度最高18万5千円)、月々の奨学資金(96年度最高6万円)を支給しようとする府独自の施策である。しかもこれらは実質的には、所得制限もなく、技能習得とは関係のない予備校まで含まれている。これは高校・大学奨学金制度を給付制で継続したものと同じで、まったく道理はない。職業訓練や運転科等委託訓練事業も国が「一般対策へ工夫を加えて移行」したもとでも同和事業として「継続」し、しかも「訓練手当」以外に。府独自に、入校支度金(96年6万円)特別奨励金(5万円十扶養家族一人3万円)を上乗せしている。これについても職安で同和地区出身という旧身分を明らかにしなければならないという差別の固定化につながるものであり、「職安が認めるもの」というきわめてあいまいな基準で給付されている。
 このように、「継続」された事業には、その必要性がなんら明らかでなく、逆に継続することにより、部落問題解決の障害をつくるものとなるのは明らかである。これらについても「廃止」「一般対策への移行」が当然である。


2、「一般対策への移行」しながら、同和行政が残される危険
 第一に、今回の「見直しにあたっての基本的な考え方」の中で、京都府は「今後は『一般対策』の中で同和行政を推進することを基本」とするとしている。しかし本来、「同和」の名による特別対策が必要なくなったことから、一般対策に移行しながら、このなかで引き続き同和行政を推進することになれば、一般対策のなかに「同和」の特別扱いや同和枠を設けるような事態や、さらには「同和事業の継続・永久化」をねらう「解同」の策動に道を開くものとなることは明らかである。
 一般対策はあくまで公正・公平に行政を推進し、同和地区内外の垣根・障壁をいっさい設けないことこそ部落間題解決の道である。荒巻知事は、わが党の代表質問に「特別枠は設けない」と答弁したが、これを厳格に守らせ、一般対策のなかで「同和」の特別扱いを、実施させないことが必要となっている。
 第二に、今回、隣保館事業は第二種福祉施設として一般対策に移行した。しかし、府下の隣保館の現状は、実質的に「解同」の事務所になったり、同和地区外の住民との共同利用になっていないところが多く残されている。こうした事態を改善し、一般地域住民も平等・公平に利用できるようにすることが、同和地区内外の交流・融合を促進するうえできわめて重要である。ところが、こうした実態の改善策をなんら講じず、「一般対策への移行」といっても、現状となんら変わらず、部落問題解決になんら役立たないものとなってしまう。
 また、「隣保館や集会所を拠点とした事業」である同和地区人材育成講座開設等事業、女性活動促進事業、青少年活動促進事業などは、これまで「先進地視察」などを名目にした遊山旅行にまで支出されてきた。今後、隣保館が引き続き「解同」の独占的利用をそのままにし、事業内容の見直しなしに、一般対策に移行されるならば、結局従来となんら変わらない事態となるであろう。
 第三に、これまでの同和啓発・研修が「人権啓発・研修]として一般対策に移行する問題である。
 これらの事業が開始された経過は、私立学校職員や宗教法人関係、さらには府立医大など、「解同」が「差別発言があった」として糾弾をしたところに「解同」の要求で同和研修事業を行なってきたものである。その結果が本年、福知山市で行なわれた「同和保育研修会」のように「豆まきやひな祭り、節句は差別」と日本の伝統文化を否定したり、「狭山闘争を語れる保母に」などと特定の運動団体の方針にもとづく研修が実施されているのである。
 こうした研修や啓発は、「すべての府民が差別意識をもっている。だから行政が啓発や研修を行なう必要がある」とするもので、「差別意識の解消」にむかってすすんでいる府民意識の実態にもあわないし、逆に「へたなことをいえば差別者といわれる」と府民の心に新たな垣根・障壁をつくりだしている。
 こうした啓発・研修は廃止し、行政は、社会教育法に定める「環境を醸成する」役割に徹すべきである。

3、市町村に「解同」言いなり行政のおしつけ
 昨年7月の閣議決定は「個人給付的事業における返還金の償還率の向上等の適正化、著しく均衡を失した低家賃の是正、民間運動団体に対する地方公共団体の補助金等の支出の適正化、公的施設の管理運営の適正化、教育の中立制の確保について、引き続き関係機関を指導する」とされている。
 これらについては、府下の自治体においても深刻な問題が発生していることは、すでに明らかになっているにかかわらず、京都府は、こうした問題の実態掌握すら行なわず。閣議決定された指導すら行なおうとしていないことが明らかとなっている。そのうえ、1月に行なわれた「解同」との交渉において、「これまでの成果がそこなわれないよう市町村を指導する」とか「現状を後退させないよう市町村を指導する」と答えており、「終結」への市町村の努力を否定する役割をはたしている。
 また、同和地区をもたない市町村やすでに「終結」したとしている市町までも含め、すべての府下市町村を「同和行政推進行政連絡会」に組織し、「部落解放基本法制定実行委員会」に丸ごと参加させ、「解同」の運動に市町村を巻き込む役割を京都府がはたしてきた。こうした市町村自治をふみにじり、市町村に重い負担を負わせ、終結への道を閉ざすやり方はただちにあらため。「同和行政推進行政連絡会」は解散すべきである。

4、知事の「解同」言いなりの政治姿勢に大きな問題
 同和行政の終結が大きな流れになっているにかかわらず、京都府の「見直し検討結果」がきわめて多くの問題を残した最大の要因は、知事の「解同」言いなりの政治姿勢にある。
 昨年12月20日におこなわれた「解同」との交渉において、知事は「部落聞題の解決がされていないかぎりは同和対策事業を継続する」(2/10解放新聞)と、同和行政の終結にまったく逆行する態度の決意表明をおこなっている。
 また、すでに破綻が明らかな「部落解放基本法実行委員会」からの脱退も明確にすることができないという、行政としての主体性のない態度取り続けている。
 こうした「解同」言いなりの知事の姿勢の根本的転換こそ、同和行政を終結させるうえで最大の課題となっていることを浮き彫りにした。
 わが党議員団は、これまで繰り返し、議会内外において全国的にみても異常な府の同和行政の歪みをただし、その終結に向けて一貫してたたかってきたが、こうした今回の問題点を厳しく批判するとともに、同和行政を終結し、部落内外の住民の交流と融合という、真の部落問題解決のために、広範な府民とともに引き続き全力で奮闘するものである。