大企業本位、「民活」方式から転換し、住民本位のまちづくりへ一学研開発問題での日本共産党の第2次提言案
【大型開発プロジェクト】
大企業本位、「民活」方式から転換し、住民本位のまちづくりへ
一学研開発問題での日本共産党の第2次提言案
(97年4月2日・府委員会、山城地区委員会、府会議員団、京田辺市・精華町・木津町議会議員団)
関西文化学術研究都市構想が発表されて19年、「関西文化学術研究都市建設促進法」が制定されて10年がたちました。昨年4月には、「セカンドステージプラン推進委員会」からの答申が出され。学研都市開発は第2段階に入っています。
この間、東京の臨海副都心、大阪の泉佐野コスモポリス開発など、全国各地で、大型開発の破綻が次々と明らかになっています。しかも、地元自治体は、これらの財政破綻のために底知れない税金投入の泥沼に引きずりこまれ、そのシワ寄せが住民におそいかかっており、これまでの大型開発の見直しの声が高まっています。
学研開発では、既存地域の整備の遅れとともに、その人毒が木津町では全体の43%、精華町では28%を超えた開発地域での公共施設などの不備も重要な問題となっており、住みよいまちづくりの願いがあふれています。
日本共産党は、こうした現状をふまえ、学研開発計画の見直しと住民本位のまちづくりへの転換に今こそ大胆にふみだすために、住民のみなさんとの対話と共同を心から呼びかけるものです。
日本共産党の第1次提言と、「民活・呼び込み型」開発の破綻
学研都市開発の第2段階が示しているのは、計画当初から指摘された問題が現実のものとなり、開発を推進してきた人々でさえ、それを認めざるをえないということです。
●日本共産党のいっかんした指摘と前回提言
日本共産党は当初から、この学研開発が、大手ディベロッパーが買い占めた土地を一大宅地化しようとする大企業のための「宅建開発」が中心のものであり、民活依存で国、府が住民にたいする責任を果たさないことが根本問題だといっかんして指摘してきました。そのことは、マスコミも「これまでの山野を削って宅地造成をするという手法は、どこにでもあるニュータウン造成とほとんど変わらず...このままで研究所を除くと新興住宅地が点在するだけにとどまり、理想の都市は絵に描いたモチに終わりかねない」(「京都」96年4月8日付)とのべるように現実のものとなっています。
95年には三つの提言--①大企業本位・「民活」方式からの転換。学研法・府「建設計画」を見直す。新たな大規模宅地開発の中止、開発規模を縮小する。②生活環境整備中心のまちづくりへの転換、既存地域の遅れの打開に力を注ぐ。つりあいのとれた地域整備をすすめる。③かけがえのない自然と緑、文化財保全優先への転換。公害規制の確立、住民参加の環境アセスメントの実施--を発表しました。これにもとづき、関係3町長との懇談やシンポジウムをおこなうとともに、提言の実現のために、図会や府議会、関係町議会で強く要求してきました。
●学研開発の問題点を認めたセカンドステージプラン答申
図上庁は、「セカンドステージプラン推進委員会」をつくり、96年4月25日には同委員会が答申を発表しました。マスコミも、「セカンドステージプラン推進委員会が答申で指摘した交通網や生活に密着した整備の不備は、学研都市の未成熟さを改めて浮き彫りにしている」(「毎日」96年5月2日)「学研都市に問題点や課題が山積みしていることは、いまさら言うまでもない。とりわけ都市基盤や都市環境の整備の面で立ち遅れが目立つ」(「京都」96年4月8日社説)と指摘したように、問答申は、都市環境などの分野に大きな立ち遅れかおることを公式に認めたものです。
実際、答申に先立っての推進委員会と地元自治体との懇談会でも「住民の視点にたった交通網の早期整備」「学研開発地区と周辺地域との一体的な整備をすすめる財政支援」などの切実な要望が出されました。問題は、なぜ、このような事態が生じたのか、これを打開するために誰が責任を持ち、財政負担をどうするのか、ということです。同答申ではこれらは不明確なままです。
前回の提言でも、セカンドステージプランの動きにふれ、「学研都市計画の基本的問題点の見直しなしには、新たな破綻や矛盾を生み出しなによりも住民の願いの実現と直面する課題の解決にならないことは明らか」と強調しました。残念ながら、セカンドステージプラン答申の内容は、わが党の前回の提言が指摘した基本的問題にひき続きメ不を入れないものになっています。
●「民活・呼び込み型」大型開発の典型一一学研開発
80年代以降、自民党政府によって、「民間企業の活力を主力に」という看板のもとに「民活」型の大型開発がすすめられました。その特徴はゼネコンなどが計画の最初から推進役として介入するが、計画の成功の保証はどこにもなく。国も民間も開発の負担も失敗の責任も負わず、すべて地元自治体に背負わされるものです。しかも、進出企業や施設も具体的に決まらないまま先行投資する「呼び込み方式」で、地方自治体の体力をこえた開発計画が押しつけられました。
全国的にもこうした大型開発計画がことごとく破綻しています。開発のための公共事業の拡大で、地方自治体の借金は膨れ上がり、都道府県の地方債の発行残高は10年で2.4倍にも拡大しています。しかも、財政危機のもとでも、開発工事は維持され、「福祉・教育狙い撃ち/これまで手厚かった政策を切り捨てる一方で、公共事業などの分野の予算は維持されたまま」(「朝日」2月27日付)という事態が広がっています。
この点で、学研開発と「筑波研究学園都市」とには根本的違いがあります。「筑波」では、東京中心の公共の研究施設を整理・統合しつつ「筑波」に移転させるという国の事業として進められ、まわりの自治体にも「都市対策特別交付金」を、毎年5億円ずつ10年間出寸などの手もうたれました。一方、学研開発は、まったく原理の違う「民活・呼び込み型」ですすめられました。今日、学研開発で問題が噴出しているのは。こうしたやり方による開発の矛盾によるものです。現実のものとなった自治体と住への矛盾のしわ寄せ
●バブルの崩壊で企業や研究所の進出計画は進まず、過大な人口計画の矛盾が露呈
学研開発は。政府と関西財界がつくった大開発計画、「すばるプラン]にそったものですが、バブルの崩壊に加え、「関西財界は関西国際空港の2期工事をひかえ、多額な出費がみこまれるだけに、学研都市にまで手が回らないのが実情」(「日経」96年5月1日付)で、企業や研究施設の進出も計画から大きく立ち遅れています。しかし「研究施設が増えたが地元との一体感は薄く」(「京都」96年6月25日付)、当初一部から「期待」のあった雇用の増大や商業の振興などの地元経済への波及効果もほとんど生まれていません。
また、過大な人口計画の矛盾も露わになっています。京都府の建設基本計画案は、1985年には約7万人だった1市2町の人口を21世紀初頭には25万人にするものです。日本共産党は、短期間でこれだけの人口急増を前提にした開発計画は、財政基盤の弱い地元自治体に体力の限度をこえる多大な負担をしいることになること、同時に開発地域への入居が予定どおりすすまない可能性が高いことを指摘してきました。
実際、地価高騰とバブルの崩壊もあり、宅地は開発されても住宅建設は進まず、「売れない住宅」も出てきています。その結果、1市2町の人口は97年1月現在でも10万5千人余にとどまり、府計画から大きくかけ離れています。府は、人口増計画との開きは認めながらも、スケジュール先伸ばしすることで、ことをすまそうとしていますが、専門家も「人口増加を前提にした都市計画でいいのか」(2月9日、「学研都市における都市と農村の共生をめざすシンポジウム」での講演)と指摘しています。この点からも学研開発の大幅な見直しは避けて通れない問題となっています。
●地元自治体への財政負担の押しつけ
府は、学研都市記念公園の建設に約200億円も投入しましたが、同公園は、大手不動産会社の宅地開発に付加価値をつけ、宅地が高く売れるようにするために作られたものです。しかも、その維持管理費には毎年1億円もかかります。また、42億円で取得した土地を国際高等研究所などに無償貸付をおこなってきました。府は。公式に明らかにしただけでも約700億円の府民の税金を投入(93年末)してきたにもかかわらず、「府が投資した事業費は平成5年(93年末)以来まとめていないしまとめる必要があるとは思っていない」(2月府議会答弁)という、驚くべき無責任な態炭をとっでいます。
しかも、進出企業については、不動産取得税と固定資産税が特別に減免され、精華・木津両吽あわせて、1億5千万円の固定資産税の減収になっています。
その一方で、道路や下水道、学校などの基盤整備の負担は地元自治体に押しつけられ、普通建設事業のなかで補助事業の占める割合は減り、単独事業が占める割合がふくれあかってきました。地元自治体は、研究所の進出や人口増による固定資産税、地方税の増収を見込んで先行投資してきましたが、計画が大きく崩れ、財政困難がいよいよ現実のものとなっています。
精華町では、91年以降の合計で、建設単独事業は補助事業の2.6倍になっています。地方債の残高は年々増えて90億円をこえ、同町の一般会計予算(90億円)を上回ってます。しかも、今後これらの整備に総額1千億円をこえる事業費が必要と予想されています。
木津町では、地方債の残高の一般会計に占める割合は、84年には58%でしたが、95年には77%に増えています。また、住宅都市整備公団が開発した平城・相楽地区の学校や保育園を、10年据え置き・20年返済の関連公共公益施設費立替制度(関公費立替制度)で建設しました。この返済が一昨年から始まりましたが、人口計画が崩れて税収が伸び悩むなか、大きな負担となっています、今後開発がすすめられようとしている京田辺市でも、84年には建設単独事業は補助事業の0.25倍でしたが、97年には逆に2.7倍に膨れ上がっており、いっそうの財政困難が予想されています、
こうした事態がこのまますすめば、住民にしわ寄せされ、福祉・教育の切り捨てにつながります。
●あふれる住民要求--解決が急務に
開発にともなう体力をこえた財政負担が地元自治体に押しつけられたため、既存地域の生活基盤整備は遅れ、開発地域でもまちづくりに重大な支障をきたしています。
精華町や木津町の下水道普及率は開発地域では100%ですが、既存地域では緒についたばかりです。生活道路や歩道の整備も遅れており、「学研都市にばかり金を使って、既存地域の整備が遅れている」の批判の声が上がっています。
一方、開発地域では、学校、保育所・幼稚園、医療・福祉などの公共施設の計画的整備が遅れているうえ、交通の便が悪く、商店も少ないなど、「21世紀モデル都市」との誇大広告とは大きくかけ離れた状態です。入居者からは、「こんなはずではなかった」との声も広がっています。
また、精華・木津町を含む相楽地域は、必要病床数の45%(95年末)しか満たさない医療過疎状態で、未熟児などの命を救うNICU(新生児特定集中治療室)のベッド数はゼロです。そのため、同地域の新生児死亡率は府内で最悪、全国平均の2倍の高さで、「助かるはずの赤ちゃんの命も救えない」事態となっています。
豊かな自然と緑、歴史的遺産も「開発」の犠牲になってきました。今後開発が予定されている南田辺・狛田地域から絶滅寸前の希少種の植物であるオオミズオオバコが発見されるなか、南山城の里山の環境を守ろうと「やましろ里山の会」が結成されるなど。市民運動も広がっでいます。
また、一昨年の阪神淡路大震災の際に、学研都市の震災対策は、「立地企業、研究所にまかせており、総合的な防災対策はとっていないj「府文化学術研究都市対策室長、「日経」95年1月26日付)状況が明らかになりました。大震災の教訓を生かした震災に強いまちづくりが強く求められています。
これらの山積みの問題は、地元自治体と住民の声をまともに間かずにまちづくりがすすめられてきた結果です。国は「学研都市人口が増えてきたいま、住民の意見を汲(く)みあげる仕組みを考えねばならない」(国土庁審議官、「京都」96年4月28日付)としていますが、「初めに基盤整備ができてから人が住むのが本来の町づくり。学研都市は、逆になってしまったから不便なんや。果してプランをどうやって実現するのか」(大崎鉄平精華町長/「京都」96年4月28日付)という声があがるのも当然です。地元自治体は3月から、約5千人の住民を対象にしたアンケートをすすめていますが、こうした住民の声が具体的に反映されたまちづくりが必要となっています。
ただちにとりくむべき5つの重要課題
このように、大企業本位・「民活」方式の開発計画をこのまま続けるならば、地元自治体と住民の暮らし、自然と緑にとってたいへんなことになるのが、いよいよ現実のものとなってきています。
日本共産党は、第2段階に入った学研都市問題の現段階をふまえ、その抜本的な見なおしと住民の立場にたったまちづくりへの転換のために、次の五つの重要課題を提起するものです。
(1)人口規摸の是正、新たな大規模宅地開発の中止、開発規模の縮小など、府・市・町の「総合計画」を見直す。財政見通しを明らかにする。
①府の学研都市「建設計画」を抜本的に見直す。木津北・東地区、南田辺・狛田地区の開発の抜本的見直しなど、大企業・住宅都市整備公団の保有地での新たな大規模宅地開発冬立地施設、立地企業の決まっていない地域の先行開発をストップし、開発規模を縮小する。
②市・町の総合計画は計画人口を是正し開発規模を縮小するとともに、既存地域・開発地域それぞれの住民の要求にこたえたものに見直し、つりあいのとれたまちづくりをすすめる。
③府や市・町のこれまでの投資の状況、今後の財駭見通しを住民に明らかにする。
(2)学研法の抜本改正。国と開発者の責任を明確にする
①関西文化学術研究都市建設促進法を地元の意思を反映できるよう抜本的に改正し企業優先の税減免をやめ、生活環境整備にたいする特別な国庫補助制度を設ける。単独事業推奨方式を改め、国の補助事業を大幅に増加させる。関公費立替制度は、現行のすえおき、返還期間を大幅に伸ばす。
②大規模宅地開発内の必要な公共施設は、開発者負担とする。開発にともなう、既存地域の公共施設の整備についても開発者に社会的責任を果たさせる。
③予定されている国立国会図書館関西館(仮称)、勤労体験プラザ(仮称)などは、地元に負担を押しつけないものにする。
(3)既存地域、開発地域それぞれの要求にこたえ、生活環境整備中心のまちづくりへ転換する
①住民と自治体がまちづくりの主体であることを明確にする。そのための住民参加のまちづくり協議会を設置する。
②生活基盤整備、教育・文化・スポーツ・福祉施設の建設を促進する。農業、商業、中小企業、地場産業の発展をはかる。良質で低廉な公共公営住宅の建設をすすめる。
③住民合意と環境保全を前提に、国・府・開発業者の責任を明確にして、遅れている幹線道路の整備、鉄軌道の新設・改良、バス路線の増設・増便をすすめ、交通問題を抜本的に改善する。既存地域の生活道路や歩道の抜本的整備をはかる。
◇都市計画道路「山手幹線」をすすめる。
◇府道枚方山城線、玉水橋のかけがえや生活道路整備をすすめる。
◇近鉄生駒から祝園・高の原への新線建設。近鉄京都線の輸送力増強・施設の改善。
◇地元自治体に負担のないやり方での、JR奈良線の複線化の促進と必要な新駅の設置。JR学研都市線の全線複線化とJR関西線加茂以東の電化をすすめる。
④木津川上流流域下水道の螫備にあたっては。国・府と開発者の財政負担を明確にし、地元自治体の負担を軽減する。終末処理場上部利用については、住民の声にもとづき有効な活用をはかる。既存地域の下水道整備を促進する。下水道を各戸に接続する工事費への低利融資を実現する。
⑤ゴミ処理施設の整備は自然・生活環境に配慮して住民合意ですすめる。
⑥相楽地域における深刻な医療過疎状態の抜本的な改善のため。府、市町の公的な支援を強化する。
⑦商業施設の適正な配置をはかる。大型店の進出については地元商店の経営を守り、交通混雑、教育環境への影響などを十分に配慮し必要な規制を加える。
(4)住民参加の環境アセスメントを実施し、怠然と緑、文化財を守る
①自然環境、埋蔵文化財の保全のために、自然環境の改変は最小限にとどめ、国や府の支援で、地元自治体独自に住民と専門家の参加する環境アセスメントをおこなう。希少種の保存など、自治体として里山の自然を守る住民の運動を支援する。
②オオタカの生息が確認された里山の良好な自然・環境を周辺の山林を含めて保全する。
③上人ヶ平遺跡、鹿背山城址などを遺跡公園として保全する。
④木津川河川敷は、残された貴重な自然空間として自然環境・生態系の保全につとめる。
⑤関西文化学術研究都市建設促進法の農地用途変換、保安林解除などの規制緩和条項を削除する。
(5)災害対策、公害規制を確立し環境と安全を守る
①直下型大地震に対応できるよう、ライフラインや公共施設の耐震化など地震に強いまちづくりをすすめる。人と装備の両面で消防力を強化し耐震能力のある地下貯水槽の設置などをすすめる。
②開発は治山・治水対策の進行にあわせ、その規模と進行をおさえる。
③進出企業にたいし、公害規制、公平な負担、地域振興への協力をおこなわせるとともに公害防止の責任をはたさせる。府は公害防止協定に当事者として加わる。
④進出するハイテク・バイオの研究施設や企業の公害防止、化学物質や放射性物質の安全管理、廃棄物の厳正な処理、公害発生時の対策などについて、京都府公害防止条例を改正するともに、京都府が責任をもって、監視・対応できる部門を確立する。各自治体に公害防止に携わる専門家を国・府の補助で配置する。
⑤祝園弾薬庫を撤去し、緑と豊かな自然を残す。
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日本共産党は、以上の提言を「案」として発表し、広く住民や地元自治体のみなさんから意見をいただいて、充実・発展させていきたいと考えています。みなさんとの対話と共同を重ねて呼びかけるものです。