ダイオキシン排出削減への5つの緊急提言
抜本的な規制の強化は急務
ごみ焼却などによって発生し、がんや奇形の原因となる猛毒物質ダイオキシン類による汚染が重大な社会問題となり、環境や農作物、住民の健康への不安が広がっています。京都府下各地でも、加茂町の清掃センターの排ガスから49ナノgTEQ/Nm3、船井郡衛生管理組合のクリーンセンターから37ナノg、舞鶴市や綾部市の清掃工場からも25ナノg(いずれも97年、厚生省公表分)のダイオキシン類が排出されていることがわかり、対策は急務です。
ところが、欧米諸国と比べても日本のダイオキシン規制の遅れはきわだっています。厚生省は、排ガス濃度や安全基準のおおもとになる耐容1日摂取量を10ピコgTEQ/kg/日としていますが、WHOの新基準では1~4ピコgで欧州では1ピコgが主流です。さらに、WHO新基準ではコプラナーPCBも規制するダイオキシン類に含めていますが、日本は対象外です。コプラナーPCBによる汚染は他のダイオキシン類にくらべても相当広がっており、コプラナーPCBを加えた摂取量は、現行の摂取基準値10ピコgをすでに超えています。また、一般廃棄物の数倍から10倍の量になるといわれている産業廃棄物の焼却による発生と汚染については、実態調査も対策もほとんど進んでいないに等しい伏況です。
国において、?コプラナーPCBを加えたうえで耐容1日摂取量を欧米なみに引き下げ、それにもとづく焼却場の排ガス濃度や大気、土壌、水質、食品、母乳などの安全基準を抜本的に強化・設定する、?ダイオキシン類の発生原因となる塩化ビニールなどの生産、使用を規制し、製品への表示とメーカー責任による回収、再生、無害化処理を義務づける、?リサイクルと減量化の徹底でごみの発生そのものを抑えることにより、焼却・埋立てを最小限にする、?発生濃度の高い焼却炉の早急な改善など、市町村にたいする財政・技術上の援助を強める、?金属精錬や化学製品の製造、塩素漂白など産業活動によって発生するダイオキシン類の規制を強める、など対策を抜本的、総合的に強化することがどうしても必要です。
17年前から府に対策を求めてきた日本共産党府会議員団
これまでも日本共産党府会議員団は、京都府にたいし、独自のダイオキシン対策をくりかえし求めてきました。1982年には、府農林部が使用を指導した除草剤にダイオキシン類が含まれていることを指摘し、使用の自粛と対策を提案。1983年には、京都市の2つの清掃工場からダイオキシン類が排出されている事実を示して、府下の清掃工場や残灰埋立地の調査と焼却炉の改良、塩化ビニールごみの分別、府保健環境研究所(当時は衛生公害研究所)への分析機器の設置などを要求。また1990年には、国の「ごみ焼却にともなう一般住民への影響はない」などとする“安全宣言”を批判し、府としての対策を強く求めました。
これにたいし府は、「除草剤の安全性はまったく問題ない」「国が心配ないと言っている」「国の動向に対応していく」とまったく無責任な対応に終始。自民党も「世間を騒がす物騒な宣伝だ」などとして、府の姿勢を擁護してきました。こうした姿勢が、「住民の安全、健康、福祉を守る」(地方自治法第2条)という自治体の本来の役割に背を向けたものであることは、いうまでもありません。
調査結果の公表すら拒否する京都府~国いいなりではなく、いますぐ独自の対策の強化を
国の対策が不十分なもとで、いま全国では、住民の不安におされて独自の条例による規制にのりだす自治体が広がっています。一般ごみは市町村の仕事とはいえ、廃棄物処理法は「都道府県は市町村に対し、……必要な技術的援助を与えることに努める」(第4条)と府県の責務を明記しています。また、産業廃棄物の適正な処理の指導監督は京都府の責任です。さらに、京都府環境を守り育てる条例では、「府は、環境の保全及び創造に関する基本的かつ総合的な施策を策定し、実施する責務を有する」(第2条)としています。国の方針待ちではなく、府としての責任ある対策を強めることが必要です。
京都府は、98年度から法の規制対象となっている大型焼却施設の排ガス調査をはじめてはいますが、その施設名も調査結果も「企業のプライバシー」を理由に公表をしないとしています。また、住民から強い要望が出されている産業廃棄物の野焼き跡地での調査も拒否したままです。99年度の当初予算でもダイオキシン総合対策費は、前年比75%にとどまり、941万円も減らされ、わずか2,809万円。これでほんとうに府民の不安にこたえることができるでしょうか。知事のいう「環境先進地」とは程遠いどころか、府民の健康と命のはなはだしい軽視だといわなければなりません。特に行政による“情報かくし”は、府民の不安と行政への不信を高め、行政と府民が一体となった解決への努力を困難にするものであり、ただちに改めるべきです。
そこで、京都府が次の5つの対策を緊急に講じるように提案するとともに、これらの対策を推進するためにも、府民参加の対策検討委員会の設置と情報公開の徹底、必要な予算の確保をおこなうよう求めるものです。
【提言1】200ヵ所の緊急調査と結果の公表、保健環境研究所への検査機器の導入
(1)法規制の対象となっている54ヵ所の焼却施設周辺の土壌の調査
府は98年度から法規制の対象となっている大型焼却炉54ヵ所(焼却能力200kg/h以上、京都市を除く)の排ガスの分析調査を実施していますが、それにとどまらず周辺の土壌の調査もおこない、結果をすみやかに公表することが必要です。
(2)最終処分場34ヵ所、埋立終了施設9ヵ所の土壌、排水の調査
焼却灰などを埋立てる最終処分場(一般廃棄物処分場20ヵ所、産業廃棄物処分場14ヵ所)とすでに埋立てが終了した9ヵ所の土壌、排水の調査。特に、処分場の下流域に水道水の水源があるところなどは、綿密な調査が必要です。
(3)産業廃棄物の焼却施設79ヵ所の排ガスと周辺土壌の調査
産業廃棄物処理施設として設置届が出されている廃プラスチックや廃油、その他の焼却施設79ヵ所(98年3月末現在、京都市を除く、一部は?と重複)の排ガス、周辺土壌の調査が必要です。
(4)野焼き現場26ヵ所の土壌、排水の調査
建設廃材などを不法に燃やす野焼きでは高い濃度のダイオキシン類の発生が心配されます。ただちに野焼きを中止させるとともに、現在、府が中止を指導している26ヵ所(98年度、8月末時点)の土壌、排水の調査が必要です。
(5)野焼き跡地など汚染の恐れが強く、住民から調査の要望がある地点の調査
八幡市では、以前に塩ビで被膜した銅線を野焼きしていた現場周辺の住民から調査の要望が強く出されていますが、府は応じていません。埼玉県では公害防止条例に住民からの「調査請求」の規定を設けています。こうした制度に学び、住民の不安に応えていかなければなりません。
(6)母乳や農作物、畜産物、水産物の調査、焼却場ではたらく職員の健康調査
大気、土壌、水質などの一般環境調査とともに、赤ちゃんの健康に影響をおよぼす母乳の調査をはじめ、農産物や畜産物、水産物の汚染実態の調査、焼却場で働く職員の健康調査など、総合的な調査が求められます。
(7)市町村が独自におこなう検査費用への府の補助
ダイオキシン類の分析は高い精度が要求されるため、1検体あたり10数~20万円(98年度の府の委託検査料は平均12万1,500円)かかり、1ヵ所につき数検体の検査が必要なため、その費用は相当な額にのぼります。住民の不安が高まっている埼玉県では、98年度、58市町村が独自に調査を実施していますが、県はその費用の2/5、計8,200万円を補助しています。宮城県も費用の1/2を補助しています。京都府においても、市町村が独自におこなう検査費用への補助が必要です。
(8)調査の際、住民代表など第3者の立会いを認めるなど、調査の客観性を確保
焼却施設の排ガスの分析は燃焼の状態によっても大きく異なります。残念なことに、調査時にだけ燃料を投入して燃焼温度を上げたり、プラスチック系ごみを除外するなどの恣意的な調査が全国各地で問題となっています。したがって調査の際には、住民代表や専門家など第3者の立会いを認め、調査の客観性を高めなければなりません。
(9)府保健環境研究所に検査機器を導入し、独自の検査体制を確立
宮城県ではこれまでダイオキシン分析を民間会社に委託してきましたが、昨年、県保健環境センターで独自の分析施設の建設に着手。分析期間の短縮と検査回数の増加、データの蓄積、自前のデータにもとづく行政指導を強めるとしています。佐賀県でも昨年、独自の分析体制を整え、市町村からの分析依頼も受け付けています。ほかにも、香川県、埼玉県、千葉県、横浜市などで独自の体制を確立または着手するなど、各地で検査体制の整備がすすんでいます。
京都府の環境行政の最前線で活躍が期待される保健環境研究所でも、ダイオキシン分析機器の導入の要望が上がっています。わが党の質問にたいし知事は「職員の研修や安全、施設の安全性など検討課題が多い」と消極的な姿勢をとりつづけていますが、こうした問題はすでに導入した各自治体の経験からも解決ずみです。府の第2次「行革大綱」では「試験検査業務の外部委託の推進」が強調されていますが、府民の安全と健康のために必要な体制はただちに整備することこそ、京都府の責務です。
【提言2】国よりきびしい府独自の基準設定、ごみ減量化の徹底でダイオキシン類の発生総量を規制
(1)ダイオキシン類の発生総量を規制するためにも、ごみの減量化・リサイクルの徹底を
焼却施設からの排出濃度の規制だけでなく、発生総量を削減する目標を設定し、環境中に排出されたダイオキシン類の本格的な削減に着手することが大切です。
そのためにもっとも重要なことは、ごみの全量焼却方式を根本的に改め、ごみの発生抑制と減量化、リサイクルを徹底し、資源循環型社会へ本格的に踏み出すことです。
府は98年9月に発表した「環境基本計画」で、一般廃棄物の処理量を10年後に96年度(年間約110万トン)比で15%削減(京都市内分も含む)する数値目標を打ち出しました。これを裏付ける各市町村の削減目標と達成計画を明確にして、早期に達成し、さらに徹底した削減をすすめていかなければなりません。また、産業廃棄物の削減目標について、府は「全体量の把握がむずかしいから目標は持たない」などとしていますが、こうした企業に甘い府の姿勢をあらため、産業廃棄物についても数値目標を設定して、削減とリサイクルに全力をあげるべきです。
(2)一般ごみ焼却場の排ガスに国よりきびしい基準を設定し、飛灰、焼却灰にもダイオキシン削減目標値を設定
現在の国の基準は、コプラナーPCBを除いた耐容1日摂取量10ピコgTEQ/kg/日を根拠にしたもので、耐容1日摂取量の見直しにあわせた排出基準の強化が当然予想されます。地方自治体としても、遅れた国の基準にあわせるのではなく、目標を先取りして積極的な削減対策を講ずるべきです。また、飛灰や焼却灰をきびしく管理することもかかせません。
埼玉県では、5年以内に一般ごみ焼却場から排出するダイオキシン類を排ガス96%、飛灰65%、焼却灰72%削減する目標と削減計画を策定。仙台市では新設するごみ焼却場の排出基準を国の1/10の0.01ナノgTEQ/Nm3に設定。狭山市や所沢市でも国よりもきびしい独自基準を設定しています。
(3)法規制対象以下の小型焼却炉も府独自に条例などで規制
焼却能力200kg/h未満の小型焼却炉を条例や要綱、指導指針で独自に規制する自治体もふえ、東京都、大阪府、福島県、千葉県、埼玉県、横浜市などで実施しています。小型炉は現在の規制対象炉の5~10倍あるといわれ、燃焼も大型炉に比べて不安定だけにダイオキシン類の排出抑制のためにはかかせません。事業所への立入り指導もできるよう、条例による規制が必要です。
また、民間の焼却炉の改善をすすめるためにも、茨城県や山口県、埼玉県などでおこなっている特別融資や利子補助によって支援すべきです。
(4)簡易焼却炉、家庭用焼却炉の使用の自粛を呼びかけ
焼却能力50kg/hを下回るような簡易焼却炉や家庭用焼却炉については、できるだけ使用しないように府民、事業者に働きかけていくことが大切です。
(5)野焼きの徹底した取締り
野焼きはいかなる方法であれ、法によって禁止されていますが、悪質な業者によって産業廃棄物などの野焼きがくりかえされているのが実態です。府は悪質な業者にたいしてもほとんどが「指導」にとどまっており、十分に対処できていません。監視体制を強めるとともに、法にもとづく「改善命令」や「刑事告発」など、断固たる措置も講じて違法な野焼きを根絶しなければなりません。
(6)府下の産業活動から排出されるダイオキシン類の規制
ダイオキシン類は廃棄物の焼却以外にも、製鉄・製鋼、非鉄金属の精錬・再生、紙パルプ・セメント・セラミックス・ガラスの製造、塩ビ樹脂や防腐剤などの塩素系化学物質の製造、塩素漂白など、さまざまな産業活動によっても発生します。これらの事業所の府下での実態を調査し、必要な規制を検討することも、ダイオキシン類の総量規制に必要です。
【提言3】塩ビ製品を規制、分別し、ごみとして燃やさない
(1)市町村の塩ビごみの分別収集への支援
ダイオキシン発生の原因となる塩化ビニール製品をごみとして燃やさないことは、ただちに実行すべき対策の一つです。加茂町では97年4月の調査で清掃センターから府下で最高の49ナノgものダイオキシン類が検出されたことを契機に、98年1月からプラスチックごみの分別回収を徹底しました。その結果、98年4月の調査では4ナノgに激減するなど、削減に効果をあげています。船井郡や北桑田郡の各町ではプラスチックごみだけでなく、さらに塩ビ製品ごみを分別して収集しています。
府は「2000年から本格的に施行される容器包装リサイクル法で対処する」と塩ビごみの分別収集には消極的ですが、容器包装リサイクル法はあくまで容器包装のみを対象としたもので、塩ビはそれ以外にもホースやレインコート、カバン、くつ、カサ、コード、おもちゃ、文房具など、生活のなかで多種多様に使われており、塩ビ製品ごみ全体の分別収集の徹底への府の支援が必要です。
また、塩素を含まないプラスチックや金属も、分別して燃やさないようにすることはダイオキシン対策上も重要であり、容器包装ごみをはじめとした廃棄物の分別収集とリサイクルがすべての市町村で軌道に乗るよう、手厚い支援が求められています。
(2)事業者に塩ビ製品の代替品への転換、使用する場合の製品への表示を強力に指導
塩化ビニールの生産、使用、回収などの全面的な規制を国に求めつつ、府として事業者に可能な限り塩化ビニールを使用しないで代替品への転換をはかるよう指導するとともに、使用する場合には分別ができるよう製品への表示を求めることが必要です。
すでに塩ビ製品ごみの分別収集を実施している八木町では、「どれが塩ビ製品なのか仕分けがむずかしい」との声が出されており、市町村の分別収集を促進していくうえで表示はかかせません。
消費者保護基本法は、「表示の適正化」(第10条)を定め、「地方公共団体は、国の施策に準じて施策を講ずる」(第3条)としており、府独自で表示を義務づけるための条例化などの検討を急ぐべきです。
また府民への啓発をすすめるうえで、府が率先して可能な限り塩ビ製品を購入、使用しないように努めることも大切です。
【提言4】ごみ焼却場の広域化、大型化の一方的押しつけをやめ、市町村の自主的な対策を支援
(1)市町村の実情を無視した広域化、大型化の一方的押しつけはやめる
国はダイオキシン対策ということで、1日の処理能力が100トン以上の焼却炉にしか補助金を出さないなど、一般ごみ焼却場の広域化、大型化を強引にすすめています。京都府も国の方針どおり、今年度内には広域化計画を策定するとしています。
しかし、峰山町は2年前に焼却炉を新設したばかりですし、丹後6町をあわせても78トン(現在の4施設の合計)にしかならないなど、市町村によって実情はまちまちです。設置場所の選定や住民合意の困難さ、遠方へのごみ運搬の問題もあります。
なにより、大型炉で24時間連続運転するためにはそれに見合う大量のごみの確保が必要となり、いま一番求められている減量化やリサイクルのとりくみに逆行することにもなりかねません。それでもたりない場合には、産業廃棄物を受け入れることも他府県のいくつかの自治体で検討されるなど、問題は深刻です。
(2)既存の焼却炉の改修への独自補助も含め、市町村の自主的な対策を支援
ごみ問題は、自分の市町村のごみをどうするのかを住民自身が考え、行政と住民が一体となって努力していくべき問題です。画一的な方針をむりやり上から押しつけるやり方をやめ、市町村の自主的な対策を支援していくことが必要です。
その際、排ガス処理装置や集塵装置の設置など、既存の炉の改修にたいする補助を抜本的に強めるべきです。埼玉県では市町村の焼却施設に対して14億円(98年度)をこえる補助をおこなっていますが、京都府ではわずかに99年度700万円のみです。
【提言5】農業用塩化ビニール製品の全量回収とリサイクルの徹底
(1)農薬用塩化ビニール製品の全量回収を徹底
農薬用塩化ビニール製品の処理は、農作物の安全にもかかわる問題であり、特に重要です。京都府内の農家が排出する使用済み塩化ビニール製品などは627トン(97年度)あり、その半分は各自で焼却しているといわれています。
JA京都グループでは、JAをつうじて府内の農家に供給している量に相当する約200トンを回収する措置をはじめましたが、さらに全量回収と代替品への切り替えなどの指導を徹底し、野焼きなどを根絶しなければなりません。
(2)行政、農業団体、事業者が一体となったリサイクルのあり方の検討
高知県では、農業用廃塩ビの回収と再生処理を目的にした公社をつくり、現在の回収率80%を100%に近づけるための指導を徹底しています。また、山梨県では第3セクターの廃プラ処理センターで再製品化に努めています。こうした経験にも学び、回収とリサイクルのあり方を積極的に検討して実施すべきです。