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政策と見解

「地方自治」と府民のくらし破壊への道をすすむ「財政健全化指針」

1999/12/06 更新
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京都府は、さる11月11日、府税収入の減少などによる財源不足に対処するとして、「財政健全化指針」を発表した。「指針」は、本年1月に発表された「京都府あたらしい行政推進大綱(第2次大綱)」を基本としながら、5月に公表した「京都府財政の現状と今後の見通し」をふまえ、当面する5年間(11年度~15年度)の取組目標を示したものとされている。

 「指針」の冒頭から、「現状を放置すれば、国の管理下で財政の立て直しをおこなう『財政再建団体』に転落することも危惧される極めてきびしい状況」と、府民に危機感を押しつけ、中身は、地方自治体の本来の役割を投げ捨て、府民の暮らしの破壊と、府民へのサービスを大幅に切り捨てる「宣言」とも言うべきものである。

 日本共産党府会議員団は、この9月に「『財政危機』を口実にした、府民と職員への犠牲押しつけをやめ、地方自治の精神を発揮して、府民の暮らしと財政の立て直しを」と題する見解を発表し、今日の本府「財政危機」の原因が、「不況の中で税収が大幅に落ちこんでいるにもかかわらず、ゼネコン奉仕・浪費型公共事業を莫大な借金をしてまで、次々と拡大してきたこと」、その一方、「伝統地場産業振興予算を減らすなど、京都経済の主役である中小零細企業対策をおざなりにしてきたこと」「進展する高齢化社会や地方分権に対応し得る税制に期待するとして、消費税増税に事実上賛成の態度をとってきたこと」などであると指摘した。その上で、「大型開発優先の逆立ちした行財政運営を改め、住民奉仕という地方自治体の精神を発揮して、京都経済と府民の暮らしの立て直しと一体ですすめてこそ、財政再建ができる」と具体的な転換の中身を示したところである。今回の「財政健全化指針」は、従来の本府の方針をそのまま踏襲したものであるが、あらためて、問題点を指摘し「見解」を述べるものである。

1、府民の営業と暮らしを破壊して、なにが「地方財政基盤の強化」か「財政安定化」を口実に、徴税攻勢と増税は許されない

 第1に、地方財政基盤の強化のための、国に対する要望事項の間違いである。

 「京都府財政の特徴」で、「産業構造上、伝統産業等構造的不況業種の割合が高いこと、中小企業の割合が高いことから税制基盤は安定しているとは言えない」と述べ、「地方税の充実・安定」のために「安定的な税収構造の確保に向けた具体的措置を講ずる」として、「景気動向に左右されない事業規模等外形標準に着目した課税方式」として『外形標準課税』の導入をうたい、さらに消費税増税を示唆するものとなっている。これでは、府民の暮らしと営業は、いっそう破壊の道をたどることは明らかである。

 帝国データバンク京都支店がまとめた10月の企業倒産件数は44件、前年同月比2.3%増で負債総額が145億円と過去最悪となり、「資金繰りに余裕のない企業があり、倒産は今後も高水準で推移する」として、中小企業の経営が「一段と悪化している」としている。日産、三菱などの大手企業の工場閉鎖・リストラによる雇用不安、中小零細事業者への受注カットなど、地域経済に深刻な影響を拡大している。

 府内中小企業はこれまでも、大企業のリストラ、下請け代金の大幅なコストダウンなどの塗炭の苦しみをおしつけられ、中小小売店は消費不況と大型店の出店など規制緩和に泣き、銀行の貸し渋り、資金回収など二重三重の苦しみの中であえいできた。赤字法人企業数は7割にのぼっている。

 しかしながら、本府はその中小企業の苦しみに耳を傾け、手を差し延べるどころか、中小零細業者や府民の暮らしを押しつぶした消費税について何等発言することなく、今度は地方消費税率のアップをいい、さらに、法人事業税について、赤字法人であっても税金を取り立てる『外形標準課税』の導入を国に要求している事は重大である。府の財政が安定しさえすれば、府民の暮らしなどどうなっても構わないという姿勢は、まず厳しく批判をされなければならない。

 今、国に強く要望すべきは、消費税を引き下げることであり、介護保険制度の改善や年金制度の拡充など社会保障を充実させることであり、中小企業対策は、「中小企業基本法」の改悪による圧倒的多数の中小零細企業の切り捨てでなく、京都経済の主役に相応しいものに抜本的に拡充し、その予算を増やすことである。また、大企業の身勝手な行動を許さず、社会的責任を果たさせ、雇用を確保することである。

 その上で、「地方分権」に相応しい、「税財源の移譲」や「地方が真に必要とする事業について、的確な予算措置を講じ、超過負担の解消をもとめること」は、当然である。

2、「財政危機」で府民を脅し、住民サービス切り捨て一辺倒は、地方自治の本旨と役割を投げ捨てるもの

 第2に、歳出削減についての「取組方針」の間違い、逆立ちである。

 「財政危機」を口実にして、府民と職員にその犠牲を押しつけ、地方自治体が本来果たすべき「住民の暮らし、福祉、安全を保持する」という仕事を投げ捨てるやり方を、いっそう押し進めようとする点である。

 「京都府財政の今後の見通し」について、「現状をこのまま放置すれば、『財政再建団体』に転落することが危惧される」とし、「財政再建団体になれば、国の管理下におかれ……福祉、中小企業対策、生活道路等府の独自施策等の実施が困難となり、府民サービスの著しい低下が余儀なくされる」とわざわざ、解説をつけている。

 6月議会で知事は、わが党議員団の「大型公共事業の見直し、凍結」要求に対し、「地方債の占める割合は京都は低い方。地方債が多いということで不安をあおるのは政治家としていかがなものかと思う」と述べたが、今回は、すぐにでも『財政再建団体』になるかのように危機感と不安をあおって、「府民サービスの低下」は我慢せよという「脅し」にも近い「指針」を押しつけるようでは、「知事としていかがなものか」と言わざるをえない。これまでから、府民の暮らしのための予算を削り続けてきたし、医療・福祉・教育・中小企業対策などの府独自のとるべき対策を怠ってきたではないか。

 「指針」は、「行政コストの削減」として、「職員定数1300人の削減計画を早期・着実に実行する」とし、「組織の見直し」では、家畜保健衛生所や、農業改良普及センターなど地方機関の縮小をさらに進めようとしている。すでに、この5年間の740人もの人員削減を教職員や医療・福祉関係職員を中心に行ってきたが、その倍の削減を早期に実行するとし、府民の願いに逆行しようとするのは大問題である。今、学校現場では、「学級崩壊」や「不登校」児童生徒の急増など、胸をいためる子供と教育の危機が進行しており、少人数学級の実現は親の切なる願いである。また、障害をもつ児童生徒に対する教育についても、障害種別の教育や身近なところに養護学校を建設して欲しいという願いが広がっている。その最低条件の保証である教職員を減らすというのは、まさに教育の切り捨てである。農林業を支援する地方機関の廃止統合・人員削減は、JA合併などでいっそうその役割がもとめられる中で「農林業軽視だ」との批判がすでにあがっている。府立医大病院や府立3病院の職員定数の削減も、結核対策や精神科救急体制の確立など府民が求める医療対策の充実に背をむける結果となっている。

 人員削減をしながら、超過勤務は大幅に削減するとしているが、サービス残業が押し付けられている現状を見れば、職員に犠牲を押しつけるだけであり、その上、給与削減実施で、「職員の意欲を高め、能力を最大限に引き出し、組織全体としての活性化や行政能力の向上」がはかれるのか、疑問である。

 「指針」は、「府立医科大付属病院、府立3病院の経営改善」と称して、外部監査制度を第1番に使って、「合理化」を押しつけ、国の医療切り捨て政策をそのまま持ち込んで、患者サービスを切り捨てようとしている。府立病院では、まだ回復しきれていない患者に退院を強制するなどの事態が生まれているが、それらをいっそう押し進めようとするものであり、断じて許すわけにはいかない。

 「事務事業の見直し」は、財政の裏付けなしに市町村に行政サービスの責任を押しつけようとするものであり、さらに、行政責任を投げ捨て、民間に肩代わりさせようするものである。すでに、市町村自治振興資金などの削減や、商工団体、障害者団体への補助金を削減し、大きな批判をかったが、今後、「聖域なく」一律にこれらを削減しようとすることは許されない。また「公平かつ適切な府民サービスの提供」といいつつ、「所得制限の見直し等、対象者の範囲、施策水準についてあらためて検討することにより、施策の重点化をはかり、社会的に弱い立場にある府民に対して的確にサービスを提供する」としているが、これは、行政サービスを救貧対策に絞り込もうとするものである。これまでにも、私学助成の削減や高校通学費補助、腎臓病人工透析患者の交通費補助の足きりなどをすすめてきた。こうした手法をいっそう拡大し、まさに、『財政再建団体』転落を口実に、『再建団体』なみのことをやろうとしているのである。

 「費用対効果の検証」を聖域をもうけることなく徹底的に検証し、府立施設の廃止をすすめるとしている一方、大型開発・大型公共事業については聖域にして、いっさい見直しをしないにいたっては、本末転倒をいわなければならない。

 これまで、経常経費の削減や、投資的経費の削減、とりわけ、枠的単独事業の削減をおこなってきた。9月補正で、公共事業における単独事業を50億円削減したが、笠置大橋など橋梁の耐震補強工事が中断したり、府道の整備は維持・修繕さえままならず、安全な通学路を確保するための歩道整備すら遅々として進まない。河川の改修や整備が放置され、浚渫・除草作業などの維持管理業務がなおざりにされ、せっかく整備された河川敷公園や交差点緑化事業で整備された緑は荒れ果てたままとなっている。養護学校の増設や老朽校舎の修繕さえままならない。こうして府下全域で、府民の生活に密着した事業は切り捨てられているのである。

 加茂町で子ども議会が開かれ、そこで子ども議員が「国道を毎日横断して学校に通っている。歩道がないために事故に合うかもしれない」と歩道の整備を求め、「みんなの税金を使っているので本当に必要なところを先に工事して欲しい」と発言していることに見られるように、大型プロジェクト優先の事業を温存し、子どもたちや住民の命と安全を後回しにしていることは、まさに「逆立ち」といわなければならない。

3、大型開発優先の逆立ちした行財政運営をあらため、地方自治の精神を発揮して、京都経済と府民の暮らしの立て直しで財政再建を

 日本共産党府会議員団は、9月の「見解」で、「大型開発優先の逆立ちした行財政運営をあらため、住民奉仕という自治体の精神を発揮してこそ、財政再建はできる」と、具体的提案をおこなった。今回の「指針」について、「府民の意見を募る」というのなら、今こそ、真剣にこの提案を受け止めるべきである。

 第1に、「財政危機」というならば、大型開発・大型公共事業はただちに凍結し、住民参加で、徹底した見直しをすること。

 第2に、公共事業の中身を、老朽校舎の改善や、福祉施設の建設、歩道や府道整備など、生活密着型に転換し、住民サービスの向上と地元中小業者の仕事の確保をおこなうこと。

 第3に、「安定した税収の確保」というなら、府民の暮らしを立て直してこそ、京都経済と財政再建は可能であり、「外形標準課税制度」の導入、消費税の増税などもってのほかである。京都経済の主役である伝統地場産業をはじめとする中小零細事業者と府民の暮らしを守る予算を拡充し、府民の暮らしと営業を応援する。

 第4に、府職員への犠牲の押しつけでなく、職員の英知をあつめ、合意と協力で、効率的行財政運営を行うこと。住民サービス部門の切り捨てやめること。大型開発、大型公共事業にメスいれず、経常経費など必要な予算の一律カットは、これまで指摘をしてきた行財政運営のゆがみを温存するものであり、あらためること。

 第5に、当面する財源不足に対処するために、地方債の低利借り替え、返済期間の猶予、大型開発事業に関連した3セクへの出資金・出えん金の回収、同和事業の廃止などを行い、国に対し地方交付税率引き上げをもとめること。

4、小渕内閣の「経済新生対策」は、地方財政危機を加速するもの

国いいなりの「公共事業中心の枠組み」でなく、府民の暮らしを応援する行財政運営に転換を

 今日の深刻な地方財政の危機をもたらした最大の原因は、「景気対策」を理由に、大型公共事業を押しつけ、地方自治体に膨大な借金を抱え込ませたことであり、政府の責任は重大である。ところが、11月25日、小渕内閣が発表した「99年度第2次補正予算案」は、大手ゼネコン型公共事業の積み上げを柱に約6兆8千億円を計上し、地方にも2兆円の負担を背負わせ、それら全額を地方債で賄う計画となっている。そして、国・地方あわせて608兆円にも膨らんだ借金と浪費を、消費税増税で国民に付け回す「経済破滅型」政策である。従来どおり、京都府が国いいなりの施策をとるなら「財政健全化」どころか、財政危機をいっそう加速することはあきらかである。あらためて、国に次の点を強く要望すべきである。

(1)国による自治体へのゼネコン型公共事業の押しつけをやめさせること。?消費税の当面3%への引き下げ、介護・医療・年金負担の軽減など、経済政策を国民本位に転換し、不況打開をはかること。

(1)国と地方の仕事と財源配分の逆転状況を改め、地方の財政基盤を拡大すること。