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政策と見解

貸しはがし・貸し渋り防止条例大綱の発表にあたって

2002/12/19 更新
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 「金融は経済の血液」といわれるほど、金融機関による円滑な融資は、中小企業にとって文字通り命綱であり、地域経済の発展にとって不可欠のものです。ところが、小泉内閣のすすめる「不良債権早期処理」加速策によって、多くの中小企業が金融の道を絶たれ、倒産・廃業に追い込まれるなど、政府の手による中小企業つぶしが強行されています。

 いま、銀行のかかえる「不良債権」の7割は、不況の中で必死にがんばっている中小企業ヘの融資です。この中小企業への新たな融資を打ち切り強引に回収を行なえば、何がおこるかは、「京都みやこ」「南京都」の2信金破たんの結果を見れば明らかです。京都の経済関係者からも「現下の状況は危機的状況だが、失業者増大や株価低迷という経済環境下では、不良債権処理加速は良い結果につながらない。重要なのは金融システムヘの信頼感を取り戻すことだ」(京都経営者協会会長)、「どんな形であれ不良債権処理加速は失業者を増大させるだけだ。本来のセーフティーネットは中小企業をつぶさず雇用を確保すること」(京都府中小企業団体中央会会長)など危惧の声があげられています。

 不良債権を無理やり処理して倒産、失業を増やせば、結局、景気が悪化し、新たな不良債権が発生するという悪循環に陥ってしまいます。いまやるべきは、不良債権の強引な処理を加速することではなく、中小企業の経営を安定させる対策です。

 同時に、地域経済に必要な資金を安定的に供給させるために、いまほど地域金融機関が本来の役割を果たすことが求められているときはありません。ところが、機械的な「金融検査マニュアル」の押しつけが、本来、地域中小・零細企業の助け合いのための協同組織として設立された信金・信組を、地元企業に貸したくても貸せない、貸さなければ自らの経営も成り立たないという「袋小路」に追い込んでいます。

 地域で活動する金融機関が、預金を安定的に確保し、預金者保護をはかりながら、本来の業務である中小企業への融資を積極的にすすめられるようにするために、乱暴な不良債権の「早期最終処理」方針の即時中止と、地域金融を破壊する現在の金融行政の抜本的な転換が必要です。

 長野県では「貸付110番」を設置し、県内の中小企業の金融実態を把握するとともに、貸し渋りや貸しはがしに対しては金融機関に改善を申し入れることにしています。

 日本共産党は国会に「地域金融活性化法案」を提案してきました。京都でも「貸しはがし・貸し渋り防止条例」制定をめざし、ここに「大綱」案を発表するものです。

「貸しはがし、貸し渋り防止条例」の中心点と条例大綱について

 「貸しはがし・貸し渋り防止条例大綱」の中心点は次の3点です。

 第1に、地域金融機関に貸しはがし・貸し渋りなどの禁止はもちろん、地域の住民、事業者の金融上の要望にきめ細かく対応する責務があることを明確にしています。

 第2に、国とともに京都府と京都市が、地域金融を活性化する責任をもつことを明記し、そのための施策を定めています。具体的には、京都府や京都市に第三者機関を設置し、地域金融機関が、地元中小企業への融資状況や地域経済にどれだけ貢献をしているのかを調査し、評価を加えて公表します。また、区域内における地域金融について、利用者などからの苦情の処理を行います。さらに必要があるときは、地域金融機関に意見をいい、改善措置をとるよう要請することができます。

 第3に、京都府や京都市に、住民、事業者、金融機関の代表者らによる「地域金融活性化委員会」(仮称)を設置し、地域金融機関への調査と評価、苦情処理など地域金融機関の活性化に関する調査をおこない審議します。

 地域の経済と金融の実態をいちばん把握しているのは地方自治体です。

 条例化のもつ意味は、金融機関の「健全性」のみに着目した金融庁の検査・監督と違い、地域経済の発展という地方自治体の立場から金融機関を評価するというものです。京都経済への貢献という新しいモノサシによって、地域に根ざした金融機関を積極的に育成すると同時に、貢献の弱い金融機関をただすことが出来ます。

 また、京都府や京都市に設置する「地域金融活性化委員会」に地域金融に関する苦情処理の機能を持たせることによって、預金者や借り手を守る機能を行政に持たせようとするものです。

 かつて京都では、蜷川知事が「納得のゆく税金、税金の払える経営」「業者に資金を、金詰まりの打開を」などを公約。1期目4年の最重点課題として、?中小企業向けの資金を確保するために地元金融機関を育成――福知山に本店があった丹和銀行を京都銀行として育成。?都道府県のおこなう本格的な制度融資のさきがけとなった「中小企業小口融資制度」の創設。?信用保証制度を利用しやすいものにするために、保証協会の窓口として府内に10支部を設置、などをすすめてきた経験をもっています。

 地方経済との関係で金融機関を評価する条例の制定は、現行法のもとでも可能です。ペイオフ一部解禁までの経過が示すように、地方自治体の公金の預け入れや指定金融機関の選定などで金融機関は地方自治体の対応に非常に敏感になっています。地方自治体の独自条例であっても、その実効性は十分確保できます。

 今回の条例大綱について、多くの関係者のみなさんの積極的なご意見をお寄せいただき、より充実させるとともに、「条例」制定と京都経済の危機打開のための共同の取り組みを広くよびかけるものです。

「貸しはがし、貸し渋り」防止条例大綱

 1)目的

 この条例は、地域経済の担い手である中小・零細企業をはじめ、地域で活動する各種団体など(以下、中小企業等)に必要な資金を安定的に確保するため、地域金融にたずさわる金融機関の責務と京都府(京都市)の役割を明らかにし、第三者機関がそのとりくみを評価、公表、また必要な勧告を関係者におこなうことを通じて、地域経済の発展と中小企業や勤労者の経済的地位の向上を図ることを目的とする。

 2)京都府(京都市)の責任と役割

 京都府(京都市)は、地域金融にたずさわる金融機関の健全な育成に必要な施策を実施し、もって地域経済および中小企業等の金融の活性化をはかるものとする。

 京都府(京都市)は、地域金融にたずさわる金融機関が、経営の安定の確保をはかりながら、この条例の目的にそって健全に発展するよう必要な要請ができる。

 3)地域金融にたずさわる金融機関の責任と役割

1、地域金融機関の役割

 地域金融にたずさわる金融機関(預金保険法第2条第1項に規定する金融機関であって、京都府内(京都市内)に営業所等を設けて地域金融にかかる業務を行うもの)は、その公共性・公正性を何よりも重視し、地域経済および中小企業等の金融を活性化するための役割を果たさなければならない。

2、貸しはがし・貸し渋り等の禁止

 地域金融にたずさわる金融機関は、顧客からの借り入れの申し出に対して、公正を旨とし、正当な事由なく一方的な融資実行の拒否(貸し渋り)をおこなってはならない。また、金融機関側の一方的な都合によって返済条件の変更を強要してはならない。債権の回収にあたっては、金融機関の公共性をふまえ、債務者との十分な協議のうえで行うこととし、一方的な回収(貸しはがし)をしてはならない。

3、「地域金融活性化委員会」への報告書の提出

 地域金融にたずさわる金融機関は、必要な資金を安定的に供給し、地域経済および中小企業等の金融の活性化を図るため、中小企業等への貸出額や貸出比率、営業を行う地域への貸出額や貸出比率(営業を行う地域で集めた預金をどの程度地域に貸出しているかの比率)など、知事(市長)が定める事項を記載した報告書を各営業年度または事業年度ごとに、「地域金融活性化委員会」に提出しなければならない。

 4)「地域金融活性化委員会」の設置

 この条例の目的を実現するため、京都府(京都市)に第三者機関として「地域金融活性化委員会」を設置する。

1、「地域金融活性化委員会」の構成

 「地域金融活性化委員会」は、京都府(京都市)に事務局をおき、委員は住民、事業者、金融機関等の代表、学識経験者等の中から知事(市長)が選任する。

2、「地域金融活性化委員会」の任務

 (1)「地域金融活性化委員会」は、京都府内(京都市内)の地域金融にたずさわる金融機関から、中小企業等への融資状況など地域金融の活性化に関するとりくみについて必要な報告を受けるとともに、そのとりくみを評価し、結果を公表する。

 (2)「地域金融活性化委員会」は、京都府内(京都市内)の地域金融に関する苦情の相談に応じ、必要な助言、苦情解決のあっせんを行う。また、京都府{京都市)に対して苦情が寄せられた金融機関への改善要請を求めることができる。その場合、京都府(京都市)は要請を受けた事案の対応について、「地域金融活性化委員会」に報告しなければならない。

 (3)「地域金融活性化委員会」は、知事(市長)の諮問に応じ、地域金融の活性化に関する事項を調査審議し、知事(市長)に建議する。