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政策と見解

2005年度京都府予算案について(談話)

2005/02/18 更新
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団長 松尾 孝

 2月16日、府議会2月定例会が開会され、知事から2005年度予算案などの議案の提案説明が行われた。

 提案された予算案は、一期目の最終年度を迎えた山田知事が「知事選公約で掲げた重点施策の仕上げをはかったもの」とマスコミも報じるなど、知事選挙を意識した予算である。しかし、それも「計画作りや検討だけにとどまるものも少なくなく」「府民が実感できる形で示すことが問われよう」と評されている。

 同時に、今回の予算案について、知事は「事業のいっそうの集中と選択をおこなうことにより、総額250億円に上る経営改革を断行した」と強調したが、まさに、福祉や医療、雇用対策などを大幅に減額し、府民への“痛み”押し付けを「断行」する予算となっている。

 わが党議員団は、今回の予算案に対する基本的な見解を明らかにするとともに、これから始まる議会での審議を通じて、府民の暮らしを応援し、京都経済を立て直す予算となるよう奮闘するものである。

1、知事が求めてきた「三位一体改革」は、府財政をいっそう深刻に

 一般会計予算総額は、前年度比1・7%増となっているが、災害関係事業費および国保調整交付金等の都道府県への移管などをのぞくと、府税収入が4・3%の伸び、法人2税についても前年度比122・8%、882億円と増えたにもかかわらず、総額では実質前年度比98・2%と減額となっている。

 これは、国の「三位一体改革」によって国庫支出金63億円の減、地方交付税と臨時財政対策債の合計で昨年の306億円の減額に続き、今年度は71億円の減額によるものである。

 さらに、国の緊急雇用創出基金や繊維活性化基金の廃止が、追い討ちをかけている。

 こうした国の地方財政切り捨てにたいし、予算案は、水道事業会計や工業水道事業会計などからの「借り入れ」という「前代未聞の手法」を使い、さらに洛東病院の廃止をはじめとした284人の職員減など、住民サービスの切り捨てとこれを「担保」とした借金・財政健全化債200億円、府債管理基金や土地基金などの取り崩しなどで財源を確保した予算編成となっている。

 これまで知事は「三位一体改革」は「地方の自由度を拡大し、地方分権を進めるもの」としていたが、わが党が指摘してきたとおり、この「三位一体改革」が進めば進むほど、「地方の自由度」を奪い、自治体財政をいっそう困難にするだけのものであることを示している。

 地方財政を確立し、住民の暮らしを守るためにも、知事が、いまこそ「三位一体改革」の名による地方財政切り捨てを許さない立場を明確にすることが求められている。

2、地方財政切り捨てのしわ寄せは、府民の暮らしを直撃

 このように「三位一体改革」で財政がいっそう厳しくなるもとで、知事は「集中と選択による施策の見直し」で250億円の財源を確保したとしているが、その内容は、民生費や衛生費などを軒並みに削減し、自治体の本来の役割である「住民福祉の増進」に背を向け、府民に犠牲をおしつけるものである。

 その第一が、病院事業会計への一般会計からの補助金は16億円余と前年比4億円も削減されているが、これは患者や府民の声に背を向けて洛東病院を乱暴に廃止し、他の病院でもリストラをすすめようとするものである。さらに府立医大付属病院への一般会計からの補助金も3億円余減額している。

 第二が、福祉分野における切り捨てである。生活保護世帯等への夏季・年末見舞金2億6千万円の廃止、老人福祉事業費を敬老祝い品の縮小などで44%に削減、低所得者のホームヘルプサービス利用料軽減措置を廃止するなど、国と一体となって高齢者対策を後退させている。

 民間社会福祉施設に働く職員の退職手当等への助成を3分の1も削減、子育て支援が求められているときに04年度途中での安心テレホンサービス事業の廃止、乳児保育促進事業を国の基準引き下げを理由に57%も削減、さらに児童保育対策費、子育て支援保育対策事業費を、市町村への税源移譲を理由に大幅に削減しているが、04年度の一般財源化による保育予算の削減に続き、市町村での子育て支援が大きく後退する危険がある。

 こうした福祉予算の大幅削減は、小泉内閣の“痛み”押し付けをそのまま市町村、住民に押し付け、そのうえに、京都府も新たな“痛み”を上乗せするというものである。

 さらに子育て支援のための子どもの医療費助成も「通院も8000円の制限をなくしてほしい」との声が広がり、多くの市町村で実施しているにかかわらず、今回もこれを改善しなかった。

 第三に、雇用対策予算が大幅に減額され、労働費全体では34・5%減となっている。国が臨時雇用創出基金事業を今年度限りで廃止したことを受けて、ほとんどの事業を終了させ、そのうえ雇用促進事業費や地域雇用開発等促進事業費など雇用対策を大幅に後退させている。

 緊急雇用対策は不十分とはいえ、失業者とりわけ中高年の失業者のつなぎ雇用的な役割を果たしてきたが、これを廃止したことは、雇用状況が依然として改善されないもとで許されない。

 また、雇用を守るためにも不況であえぐ伝統・地場産業、中小企業支援が求められているときに、和装伝統産業振興関連予算は緊急雇用対策予算を含めて4億円余であったのが、2・2億円と半額近くになっている。

 このように、知事の言う「事業の集中と選択による経営改革の断行」は、府民の暮らしと雇用、京都経済をいっそう困難にするものとなっている。ここには「自立・自助」「受益と負担」「採算性」「経営の視点」などといってすすめる府政が、住民の暮らしを支える自治体の本来の役割を投げ捨てるものであることが端的に表れている。

3、財政危機の中でも、不要不急の事業を相変わらず継続

 「財政が厳しい」として、府民に犠牲押し付けを「断行」しながら、学研都市建設推進費7375万円、京都市内高速道路出資金11億6650万円、関空2期工事出資金5600万円、和田埠頭建設費28億4000万円、丹後リゾート公園整備5億3380万円、木津川右岸運動公園3億2000万円、畑川ダム建設1億円など、ムダと不急の大型公共事業は継続している。

 今回、大戸川ダムの利水分負担金は計上しなかったが、これはわが党議員団が指摘してきた過大な水需要予測の見直しを早期に行っていれば、これまでの支出はいらなかったものである。また、福田川ダム建設中止の方向を明らかにしたが、ここでも過大な水需要予測と代替措置の真剣な検討を行わず、「ダム建設、先にありき」ですすめてきた府の責任が問われている。

 また、本来、10年以上も前に役割を終えている平安建都1200年協会を存続させ、今年度は25%も増額している。これについては自民党議員からも昨年の決算委員会で「役割を終えている」と指摘されているように、終了すべき事業である。さらに、今後70数億円も措置しなければならない同和奨学金償還対策事業もなんら見直しがされず、世界人権センター運営助成4300万円も計上している。

 これらに本格的な見直しを「断行」してこそ、府民の暮らしを守る予算へと転換することができる。

4、“問題あり”の知事選目当ての新規事業

 マスコミなどで報道されている今回の“目玉”事業の中には、一定府民の声が反映したものもあるが、多くの問題点が含まれている。

 その一つは、教育関係である。マスコミが「授業の達人養成」と報道した「教科指導力充実事業」は「大学受験指導において、高い教科指導力のある教員を養成する」として、予備校で府立高校の先生を学ばそうというもので、府立高校の予備校化をいっそう進めるものであり、高校教育のあり方をゆがめるものである。

 また、文科省が全国の子どもたちに押しつけている「心の教科書(ノート)」を府教委も独自に作る予算が計上された。科学的な認識や判断力を育てなければならない教育に、特定の「心のあり方」「価値観」を持ち込み、子どもたちに教えようとする危険なものである。

 私学助成についても、生徒一人当たりの補助単価を8年ぶりに44000円から48000円に引き上げたが、私学への補助制度を変えることによって、総額では3億4400万円も減額している。

 また、中学1年生で英語・数学の「少人数授業」が導入される。しかし、全国の流れである「少人数学級」実施については、加配教員を活用すれば小・中学校すべての学年で35人学級が実施できるにかかわらずこれに背を向け、「できる子、できない子」に分ける「少人数授業」に固執している。しかも、教育にも「経営の視点」を持ち込み、「京都式少人数教育」も、「安上がり」の1000名近い非常勤講師ですすめ、さらに05年には高校の廃止・統合を本格的にすすめようとしている。

 二つには、企業誘致をすすめるため進出企業に対する補助金を1社で最高20億円まで引き上げるとしているが、他方、数千の企業がある和装・伝統産業予算は総額で1・5億円余である。雇用の拡大、京都経済の振興というなら、京都のものづくりと雇用の担い手である伝統・地場産業、中小企業への支援こそ重視すべきである。

 三つに、「中小企業へのワンストップサービス」として、中小企業総合センターと財団法人「京都産業21」を統合しようとしていることである。

 中小企業総合センターは、これまで中小企業に対し経営・金融・技術指導を一体のものとして取り組み、京都経済を支える中小企業を育てる大きな役割を果たしてきた。ところがいまの府政は、昨年から金融・融資相談は銀行窓口にゆだね、今回、経営指導も民間にゆだね、中小企業総合センターを技術指導の機能だけにしようとするもので、中小企業への「総合的支援」の放棄である。

 しかも、財団法人「京都産業21」は、理事長がオムロンの立石義雄氏であり、オムロン、NTT、関西電力、大阪ガス、京都銀行などからの職員が派遣された組織である。ここに中小企業総合センターを事実上吸収するもので、中小企業支援の公的役割を投げ捨てるものである。

 そして京都産業21への助成の増額は5709万円となっているが、中小企業総合センター予算は1・7億円減額し、ここでも中小企業支援予算を減額している。

 四つには、「安心・安全」「危機管理」を口実にした戦争体制づくりを本格的にすすめようとしていることである。「武力攻撃事態」に対応したマニュアル作りや体制確立のための予算と関連条例が提案されている。そして「戦争手当」ともいうべき「武力攻撃事態」の際、出動する職員への手当を支給する条例案も提案されている。

 地震や台風などはなくせないが、「武力攻撃事態」=戦争は起こさないようにすることとこそ求められている。知事をはじめ自治体関係者は、憲法9条を生かし、平和を守るために努力し、住民の命や財産を守ることこそ第一義的役割である。それを投げすて「武力攻撃事態」=戦争への「備え」をすすめることは、再び戦争への危険な道をすすもうとすることに他ならない。

5、「削減型は限界」として自治体の役割を投げ捨てる「構造改革」をすすめる

 知事は、提案説明で「府庁組織に経営感覚を浸透させる、行政経営品質の向上を図るための予算を計上した」としている。

 すでに知事は「経営戦略会議」「経営戦略室」を設置し、「経営の視点」「経営改革」として、トップダウンで洛東病院の廃止を強行したが、今度の予算は、これをさらに全庁的に、本格的にすすめようとするものである。

 また、今回「NPOとの協働事業」を強調している。住民やNPOの自主的な活動を支援することは、重要な課題であるが、今回の事業にも含まれているように「府管理河川の除草・清掃活動」など、本来公的責任で行わなければならないような事業まで「府民・NPOとの役割分担、協働」として、府の責任を放棄し、「安上がり」の行政運営をすすめようとするものが含まれている。

 このように、自治体の役割を転換させる「構造改革」「経営改革」をいっそうすすめる体制づくりの予算となっている。

 今回の予算案は、小泉政治と同様に、府民に新たな“痛み”を押し付け、「構造改革」と称して自治体の役割を投げ捨てようとする予算案となっている。わが党議員団は、府民の願いと運動を土台に、自治体本来の役割を果たす府政への転換を求めて全力をあげて奮闘するものである。