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政策と見解

「京都府中小企業振興基本条例大綱」の発表にあたって

2011/02/01 更新
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二〇一一年二月日本共産党京都府議会議員団


 私たちは、今回「京都府中小企業振興基本条例大綱」を提案します。その目的は、この提案に対して、多くのみなさんからご意見をいただきながら、幅広い協同の力で「基本条例」を制定し、中小企業を振興し元気にすることで、京都経済・地域社会を再生させる、内需主導で地域循環型の経済を実現することです。
 ぜひこの提案をお読みいただき、みなさんのご意見をお寄せください。そして、京都の英知を結集して「中小企業振興基本条例」をつくり、地域経済と地域社会を元気に再生させようではありませんか。地域経済を支える根幹の中小企業を元気にすることが、地域再生への大道京都経済のなかで、中小企業は企業数の99・8%を占め、雇用者数でも全体の72・9%、約57万人を占めており、経済を支える根幹です。戦後、日本経済の驚異的な成長や、世界的にも有名な大企業の発展は、中小企業、下請けとして最底辺を支えた小規模零細業者の力抜きにはあり得ませんでした。
 ものづくりの歴史が長い京都の伝統産業で培われた技術は、携帯電話のような精密機器や先端産業を支えていますが、伝統産業・文化を継承する力の中心は家族経営を中心とした中小業者であり、世界中から観光客をひきつける「京都らしさ」を支えているのも、中小企業・業者であると言っても過言ではありません。
 また、大企業がリストラや派遣切りに走った不況の時でも、多くの中小企業は従業員の雇用を守り、府民の暮らしを安定させ、支え続けてきました。とくに高齢者や女性が働く割合は、常に中小企業の方が大企業よりも高く、地域の雇用を守る大きな役割を果たしています。
 さらに、府内のそれぞれの地域で、中小業者のみなさんは、たとえば消防団活動や商店街、町おこしなど多様なとりくみを支えており、地域社会の担い手として、大きな力を発揮しています。
 しかし、中小企業は、長年にわたり大企業による下請けいじめなどに苦しめられてきました。さらに日本経済全体の長期にわたる地盤沈下のなか、京都では昨年も457件の企業倒産があり、1991年からの15年間では全事業所の5分の1にものぽる3万以上の事業所が倒産・廃業するなど、危機的な事態となっています。
 この深刻な状況をこれ以上放置すれば、単に中小企業の問題だけにとどまらず、京都経済全体、地域社会全体が、取り返しのつかない衰退の道へ進むことになります。私たちは、以前から中小企業振興と京都経済活性化を結びつけた総合的な振興条例の必要性を繰り返し訴えてきました。京都経済と中小企業の厳しい現状からみて、これ以上先延ばしせず、今こそ幅広い協同の力によって「中小企業振興基本条例」を制定することをよびかけるものです。国の「中小企業憲章」の精神を京都経済の振興に生かすために
 これまでの国の経済・産業政策は、大企業の利益確保が最優先で、中小企業は軽視され、逆に中小企業は大企業の搾り上げの対象でした。1999年の中小企業基本法改悪によって。建前としては存在していた「格差の是正」が投げ捨てられ、もともと貧弱だった中小企業政策は、ベンチャーなど一部の企業だけを対象とするものに変質させられました。経済のグ囗ーバル化と政府の「構造改革」政策のもとで多くの中小企業が支援の外に置かれ、整理・淘汰の対象とされた結果、全国で多くの中小企業が倒産・廃業に追い込まれ、失業者が増加し、地域社会が崩壊する深刻な事態となりました。
 そうしたなかでも、京都や全国の中小企業・業者団体のみなさんが粘り強い運動を続けられた結果、ついに昨年6月、政府は初めて「中小企業憲章」を閣議決定しました。「憲章」は、「中小企業は、経済を牽引する力であり、社会の主役である」として、中小企業の役割を高く評価し、「政府が中核となり、国の総力を挙げて」中小企業を支え、「豊かな国民生活を実現する」と宣言しています。
 この「憲章」のモデルはEUの「ヨーロッパ小企業憲章」ですが、ヨーロッ
パではすでに10年前から、「シンク・スモール・ファースト」(Think small first「小企業を第一に考える」)という考え方に立ち、経済政策の軸足を中小企業に置いてきました。その結果、日本で毎年、中小企業が減り続けている間に、EUでは毎年約150万社が新たに設立され、2007年までの5年間だけでも計206万社、率で11%も中小企業が増加、730万人の雇用が増加しています。新規設立企業の多くは若者による起業であり、大部分が従業員4人までの小企業です。とくにフランスでは、2009年の起業件数が過去最多となっています。日本も「国の総力を挙げて」中小企業を支えると宣言した「中小企業憲章」をしっかりと生かしていくならば、中小企業を活性化し、起業を増やし、日本経済の行き詰まりを打開する大きな足がかりとなるでしょう。
 しかし、この「憲章」を現実に生かしていくためには、「憲章」を閣議決定にとどめず、国会決議とし、具体的に政策立案していくことや、現行の中小企業基本法を「憲章」の精神で抜本改正することが必要です。そしてこの京都では、京都府が「憲章」の京都版というべき「中小企業振興基本条例」を制定して、中小企業を「主役」とした京都経済振興策を立案し、定期的に進捗を点検して、経済をたで直す現実の力としていくことが求められています。このことは、法律的にも現行の中小企業基本法の第6条で、地域独自の産業施策の策定・実施は「地方公共団体の責務」であると明確に規定されています。
 このように国の中小企業政策の動きと法律的な観点からも、京都の実状に合った「基本条例」を制定することが強く求められています。

京都経済再生のためには、府の産業敢策の転換が必要

 京都府は、従業者が1人~4人規模の事業所の割合が全体の64・3%で、全国平均に比べて3・4%高く、とくに零細な業者が多い地域です。しかし、この間の京都府の産業政策は、中小企業への融資制度などはあるものの、全体としては補助金による大企業誘致や、一部の先端産業、ベンチャー企業向けの施策が中心となっており、圧倒的多数の中小企業・業者は事実上支援の対象外とされてきました。
 2007年に制定された「京都府中小企業応援条例」は政策条例であり、中小企業のみなさんや私たちが求めてきたものとはまったく違うものです。経済団体や専門家も、京都の条例を全国の自治体の「基本条例」とは明確に区別しています。「応援条例」の内容は研究開発事業での知事認定企業に対する不動産取得減税や、知的財産・融資の支援、表彰などの優遇が中心で、新技術で事業展開する先端産業向けのものとなっています。そのため、条例の目玉である研究開発事業で知事の認定を受けた企業は、京都の中小業者94000のうち。わずか81件であり、目的に書かれた文言とはかけ離れた実態となっています。
 府が産業政策のなかで力を入れてきた企業誘致では、3億6000万円もの雇用補助金を出したジャトコ(株)が、2008年末までの期間に、約300人の派遣社員全員を解雇して大問題になりました。多額の補助金をつぎ込んで誘致した企業の撤退や大規模解雇のような例は全国で多発しており、地域経済に波及効果が少ない巨大プロジェクトとともに、高度成長期以来の古い形の産業政策をこれからも続けるのか、京都でも厳しく問われています。
 とくに京都府の中小企業に対する姿勢を典型的に示した問題として、昨年の「スクール・ニューディール事業」がありました。この緊急経済対策事業の目的は、地域の中小企業の受注機会の増大であったにも関わらず、府立高校に地上デジタルテレビ等を大量購入するにあたり、府は当初、東京の大手商社に一括発注しました。地元業者のみなさんからの強い抗議と私たち議員団の議会での追及を通じて、府はその後、通学圏ごとの分離・分割発注へと改善し、地元業者も受注することができました。しかし、この事態は、経過を知る地元業者と多くの府民を驚かせ、府政に対する大きな怒りと失望をよびおこしました。
 私たちは、もしも閣議決定された「中小企業憲章」にある「どんな問題も中小企業の立場で考えていく」、「地方自治体が中小企業からの調達に配慮し、受注機会の確保や増大に努める」という精神が京都府政のなかに徹底されていれば、このような事態は起こり得なかったと考えます。
 さらに、府は「中小企業の海外展開を支援する」としで特別に力を入れています。中小企業の海外への販路拡大などは大切なことですが、多くの府民が働く圧倒的多数の中小企業・業者は、これまでもこれからも、地域社会の担い手として京都に根ざして経済活動を行なっていきます。世界経済の動きが複雑になっている今、地域経済活性化のための十分な施策を抜きにした海外経済だのみでは、京都経済の安定的で持続的な発展は望めません。
 このように、現在の京都府政の実態からみでも、そこには中小業者の願いや「中小企業憲章」の精神との間に大きな隔たりがあることから。それを解決するために私たちは「基本条例」を制定し、政策転換をはかることがどうしても必要であると考えます。


全国の優れた事例に学びながら、京都にふさわしい条例を


 全国では、現在70近い地方自治体が、総合政策型の「中小企業振興基本条例」を雛定、実施しており、その動きはひろがっています。そのうち県段階では、15道府県が実施しています。
 「基本条例」は、アクションプランなどの個別施策と違い、法的な拘束力、強制力をもち、たとえ担当職員や知事が交代してもその内容が継承されるものであり、制定・実施している自治体では、中長期的な視野にたって産業政策や地域振興を強力に進めることが可能です。
 私たちは、「中小企業憲章」や全国の自治体で取り組まれている優れた事例等に学びながら、幅広い協同の力で、京都の実状に合った「基本条例」を制定、実施すべきと考えます。
 たとえば、中小企業家同友会の「中小企業憲章草案」は、「中小企業は、日本経済の根幹である」と位置付け、政府の「中小企業憲章」の内容に大きな影響を与えました。
 また、2007年に制定された千葉県の条例では、地域の持続的な発展をはかるために「県をあげて中小企業を育てていく」ことが「何よりも重要である」としたうえで、中小企業振興の目的が経済振興だけでなく「地域づくリ」を進めるためでもあることを明記しました。そして、県のすべての施策について「中小企業の経営に及ぼす影響について配慮する」ことを掲げ、具体的施策の策定には中小企業の当事者等も参加し、行政との協同の力で遂行する体制をつくっています。
 条例制定に深く関わった千葉県中小企業家同友会の方は、大事な観点として「単に弱者としての中小企業救済ではなく、中小企業の活性化こそが豊かな県をつくる根幹」であり、「行政が上から支援するのではなく、県民をあげて中小企業が旗張れる環境を一緒につくっていくこと」をあげています。
 私たちの京都には、全国のほかの地域と比べて大変恵まれた財産があります。それは、長い歴史のなかで育まれてきたものづくりの技術や伝統であり、さまざまな分野の職人や中小業者が幅広いネットワークをもって活躍し、大学や研究機関が集中しているということなどです。
 全国の事例に学びながら、京都の特性や実態によく合った「基本条例」をつくり、中小企業振興を効果的にすすめることを通じて、ご一緒に京都経済を元気に再生させようではありませんか。

 発行:日本共産党京都府会議員団 〒602-3041京都市上京区下立売通新町西入京都府議会内◆.Q75-414-5566 / FAX 075-431-2916

(1)条例の目的
 この条例は。京都の中小企業が京都経済の根幹であるという認識にちとづき、中小企業振興について基本理念を定め、府、事業者、府民および関係者の役割を明らかにし、総合的な中小企業振興をもって、地域経済の活性化と地域社会の持続的な発展に寄与することを目的とする。

(2)定義
 この条例において掲げる「中小企業」とは、中小企業基本法(和38年法律第154号第2条第1項に規定する中小企業者で、府内に事務所又は事業所を有するものをいう。

(3)基本理念
 京都の中小企業・業者は、京都経済を牽引する力であり、地域社会の主役である。中小企業が元気に活躍できる社会は、府民の雇用と生活が安定した社会であり、文化的にも豊かで住みやすい社会である。私たちは、府の総力をあげて中小企業を励まし、支え、中小企業を第一に考えた総合的な政策を突行することにより、京都経済の活性化と地域の持続的な発展をはかり、安定的で豊かな府民生活の実現をめざすものである。

(4)府の責務
 府は、基本理念にのっとり、中小企業の振興に関する施策を総合的に策定し。実施する責務を有する。また、実施に当たり、中小企業者や経済団体、市町村、大学等と連携を図るよう努めなければならない。

(5)関係者の役割

①中小企業者および中小企業関連団体の努力
 中小企業肴は、基本理念にのっとり、経済的社会的環境の変化に対応して、自主的に経営の向上と改善に努めなけれはならない。また、中小企業関連団体は、基本理念にのっとり、中小企業の経営の向上と改善に主体的に取り組むとともに、府が行う中小企業振興に関する施策の実施について協力するよう努めるものとする。

②大企業者の役割
 大企業者は、基本理念にのっとり、地域づくりに取り組むことにより、地域の活性化と中小企業振貝に資するよう努めるとともに、中小企業と共存し育成する見地に立ち、府か行う中小企業振興施策の実施について稜極的に協力するよう努めるものとする。

③大学等の役乱
 大学等は、その人材の育成並びに研究およびその成果の言及か中小企業振興に資するものであることにかんがみ、自主的に地域づくりに取り組む場合には、基本理念にのっとり、これを行うよう努めるものとする。

④府民の理解と協力
 府。民は、中小企業の振興が府の経済の健全な発展および府民生活の向上に寄与することを理解し、中小企業の振興に協力するよう努めるものとする。

⑤市町村への協力
 涓は、市町村か行う中小企業の振興に関する施策について、市町剖に対し、愉報の提供、技術的な助言その他の必要な措置を講ずるよう努めるものとする。

(6)基本方針

①知事は、基本理念にのっとり、中小企業の振興に関する基本力針を定めなければならない。
②知事は、基本方針を定め、または変更するにあたっては、中小企業者など関係者の意見を聴くとともに、必要事項を公表し、附民の意見を広く求めるよう努めなければならない。
③知事は、基本力針を定め、または変更したときは、ただちにこれを公表しなければならない。
④知事は、経済の急激な変化が起こったときは、困難な条件のしとにある中小企業者の経営を維持するため、緊急施策を定め、実施しなければならない。

(7)創業等への意欲的な取組の促進
 府は、経済的社会的環境の変化に即応した、創業及び中小企業者の経営の革新その他の経営の癖上への意欲的な取組を促進するため、経営に関する情報の提供、技術力の向上に関する支援その他の必要な施策を講ずるものとする。

(8)産学官民の連携の促進
 府は、産学官民の連携が中小企業の新たな事業の創出、技術力の強化等に資することにかんがみ、中小企業を中心とした産学官民の連携の促進を図るため、関係者の交流の機会の提供、共同研究の実施への支援その他の必要な施策を講ずるものとする。

(9)経営基盤の強化の促進
 府は、羅営資源の確保が困難であることが多い中小企業者の事情にかんがみ、その経営基盤の強化を図るため、資金供給の円潜化、相談及び支援を行う体制の充実その他の必要な施莱を講ずるものとする。

(10)人材の確保及び育成の支援

①府は、中小企業の事業の展開に必要な人材の確保及び育成を図るため、就業支援、職業能力の開発、府職業訓練施設の充実、その他の必要な施策を講ずるものとする。
②府は、学校教育における勤労観及び職業観の醸成が中小企業の人材の確保及び育成に資することにかんがみ、児童及び生徒に対する職業に関する体験の機会の提供その他の必要な施策を講ずるものとする。

(11)地域づくりによる地域の活性化の促進
①府は、中小企業の経営の向上及び改善に相乗的に効果を発揮するような地域づくりに努めるものとする。
②府は、地域の活性化を促進するため、地域の資源を活用した新たな事業の創出の支援、商店街の活性化を図るための事業の支援その他の必要な施策を講するものとする。

(12)地域経済振興会議(仮称)の設置
 府は、適切な範囲の地域を単位に、中小企業団体、商工会、金融機関、労働団体、住民団体、大学や研究機関等からなる地域経済振興会議(仮称)を設置し、市町村と協力して、それぞれの地域に合った地域経済振興策を制定し、それにもとづく施策を講ずるものとする。

(13)伝統文化観光等の業種別等の振興会議の設置

①府は、伝統産業、観光産業をはじめ、業種別等の振興会議を設置して振興策を制定し、それにもとづく施策を講ずるものとする。

②前項の振興会薙は、学識者、中小企業者、中小企業隣連団体等により構成するものとする。

(14)共生社会の実現
 府は、中小企業が、女性、高齢者、障害者など、多様な人々を雇用することで、誰もが共に暮らせる共生社会をつくることを積極的に支援するものとサる。また、誰もが失敗しても再挑戦できる社会をつくることを支援するものとする。

(15)施策実施上の配慮
 府は、施策の立案及び実施に当たっては、当該施策が中小企業の経営に及ぼす影響について配慮するよう努めるものとする。

(16)受注機会械の優先的確保
 府は、工事の発注、物品及び役務の調達等にあたっては、予算の適正な執行に留意しつつ、中小企業者の受注の機会の優先的確保に努めるものとする。

(17)調査及び研究
 府は、中小企業の振興に関する施策を効果的に推進するため、必要な調査及び研究を行うものとする。

(18)施策の実施状況の公表

①知事は、毎年、条例に基づく中小企業振興施策の尖施状況を収りまとめ、公表し、中小企業者をはじめとする関係者の意見を聴かなければならない。

②府は、聴取した意見を考慮して、施策をより効果的なものにするよう努めるものとする。
(19)財政上の措置
 知事は、中小企業の振興に関する施策を推進するため、必要な財政上の措置を講ずる
ものとする。